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不可視の獣(完)

 跳躍。ほんの一回大地を蹴っただけで、ありえない高度へとその体が空へと跳ね上がっていく。


 空が剥がされ現れた宙へ、白い体が真っ直ぐと。そして羽もないのに空中に静止し、鞘から白いスーツ姿には似つかわしくない刃を取り出した。

「少し頭を冷やすといい」

 あとは、ほんの一瞬だった。


「迷惑をかけたな」

「あー………………はい」

 白い人の小脇にはすっかり元のサイズ、そして本来の姿であろうキラキラした猪に戻ったアレが峰打ちで気絶した状態で抱えられている。

「遅ぇんだよ」

 ちっ、と舌打ち。突然現れたイケメンに全てをもっていかれて相当面白くないのか、言葉にも声色に棘がある。

「女の子に頼りっぱなしで情けなくないんですかぁ?」

「躾のなってない男だ」

「あ゛ぁ!?」

「落ち着いて」

 不動くんの服の裾をひっぱると、唸ったまま一歩下がる。番犬みたいだ。

「説明義務はあるだろう。こいつは天におわすあの御方の庭にいる猪だ」

 まず"天におわすあの御方"の説明がないのだが……多分、神様なのだろう。町にいるようなのではない、本物の強大な力をもつ神様。

 多分あの、剥がれた空の向こうにいた人。

「こいつはなんでも食べる。汚れたものを食べれば一体化し、天にある泉で入浴したら浄化され、分離して元に戻る。食われたものは天で再利用される」

「だからその……ビルとか食べてたんですか?」

「だろうな。少しでも多くのものをきれいにしてやろうというこいつなりの善意だ。食いすぎて迷惑をかけたのは良くないが」

「あの……最初、人とか食べてたと思うんですけど……」

「そうか」

 ただ一言、それっきり。見た目は人だし不動くんだって会話できるようだが、やっぱり人間じゃないのだこの人は。

「とはいえ透明になったものすら見通す目はすばらしい」

「はあ……」

「どうだ、いっしょに天に来ないか。この世界は辛かろう」

「はぁーーーーーー!?」

 私がなにか言う前に不動くんが絶叫する。私を抱き締めて遠ざけると、「死ね!」とストレートな暴言を吐いた。

「やかましい上に汚らわしい男がついているな。哀れだ」

「ぶっ殺すぞ!!!」

「こんな世界から飛び立ちたいと思ったらすぐに呼ぶといい。神は祝福してくださるだろう」

 地面を軽く蹴って、ふわりと浮く。空にさっきみた宙と同じ色の穴が開き、猪を抱えたまますぅとその中へ入っていく。穴はそのあと自然に閉じて、また元の青空が戻ってきた。

「あんなやつと付き合っちゃダメ!!!」

「関わりたくはないけど……」

「そう! だめ! だめ!」

 でも多分関わる羽目になるような気がする、とは言わないでおいた。

「お疲れ様。助けてくれてありがとう。ご飯おごるよ」

「それはいいけどあいつぶっ殺してえな。……どうやって帰るの?」

「元のところまで戻ろうか。そこにいったら戻れる場所あるから」

「ふぅん」

 一応まだ動く車に乗り込みながら、思う。そういえば、なんで不動くんはここに来れたんだろう?

「なー、飯なにがいい? サイゼ?」

「あ、じゃあ行ってみたいところあるんだけど……」

 動き回ったせいかお腹がとってもすいている。頭のなかはご飯で一杯になって、エンジンの音がする頃にはすっかり直前の疑問は消えていた。



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[一言] 恋のライバル(ガチの神様)
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