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幽霊がいる部屋

 幽霊がいる、という噂の部屋を借りた。


 金がないからだ。ギリギリ借金はないし仕事はしているが、競馬、競艇、ソシャゲで破滅しそうな勢いだ。数ヶ月後には貯蓄はゼロになって消費者金融に足を運んでいることだろう。前の物件の家賃すらギャンブルにつぎ込みたくなって、アパートの経営をしている親戚から家賃格安の物件を紹介して貰ったのだ。

「借り手はつくけどすぐ引っ越しちゃって持て余してたんだよ」

 親戚はそうため息をついていた。俺としては願ったり叶ったり。なんせ俺は年中ギャンブルのことしか考えていないギャンブル脳。幽霊のことなんか気にもしないだろう。

「……………」

 その考えは少し甘かったかもしれない。霊感なんてないはずだが“いる“のはわかる。人の気配が、明確な“何か“の気配がはっきりする。リビングだったり、キッチンだったり、場所はさまざまだがたしかに“いる“のはわかる。複数ではなく、一人だ。部屋を移動するものの、外に出る様子はない。

 自分の部屋だというのに気持ちが全然落ち着かない。なるほどたしかに住人がすぐ出て行くはずだ。とはいえなんと家賃五千円。前の部屋との差額、六万円。月六万もギャンブルにつぎ込めると思うとその程度で出ていく気はしなかった。

 そんなある日、風邪を引いた。医療費がもったいなくて市販薬すら買わなかったせいで悪化し、熱で布団から起き上がれなくなった。

(ヤバい、死ぬかも)

 体が重くて、電話で誰かに助けを求めることすらままならない。まあこのままギャンブル漬けで借金をして、親に迷惑をかける前に死んだ方がいいかもな、なんて自嘲をしたときに、何かが俺を見下ろしているような気がした。

 それはまるで幽霊のように全身が半透明の女性。心配そうに俺の様子を伺っている。

「だ……れ……」

 そう呟いたところで、俺の意識は闇に落ちた。


「いや本当ヤバかったらしいな」

 数日の入院のち、我が家へと帰ってきた。死ななかったのは家を訪ねてくれた友人のおかげ。

「熱で覚えてないかもな。急にお前から電話かかってきて『たすけて』って一言できれたんだよ。かけ直してもでないし。

 声が変だったけどお前最近調子悪そうだったからもしかして具合悪いのかと思って行ってみたらさーガチで死にかけてたとは思わなかったぞ。体調には気をつけろよ」

 俺は電話なんかかけていない。いや、あの体調ではかけることすら叶わない。そして友人曰く、俺の頭の周りには氷が散らばっていたという。もちろんそんなことをした覚えはない。

 非科学的なことではあるが、もしかしたら『彼女』が助けてくれたのだろうか。

 御礼の代わりに、彼女がよくいるリビングの隅に、花を飾った。100均の花瓶に一輪の薔薇という質素なものだ。

 その夜、夢を見た。女性が、ニコニコしながら飾った薔薇の手入れをしている夢だった。


 友人からDVDを借りた。いや、貸された。映画オタクの布教というやつだ。話題作ではあるので、たしかに気になっていた作品ではあった。

 休日に、なんとなく見始める。他人に勧めるだけあって、たしかに面白い。途中でふと気付いた。いつもはうろうろすることが多い『彼女』の気配が、今日はDVDを見始めてからずっとリビングの隅にあることに。

「……別にこっちで見てもいっすよ」

 なんとなくそう言ってみた。気配が、ソファの上、俺の隣に移動する。

 部屋にあるのは、俺と彼女の気配だけ。音は映画と、外から響く鳥の鳴き声、風の音、裏手の川のせせらぎ。いつもなら、競馬場の喧騒の中にいるのに。

「…………」

 友人から貸されたDVDはまだいくつかある。今日は競馬場、行かなくてもいいかもな、とふと思った。

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