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『■■の世界にようこそ!』

 見知らぬ女と寝た。


 よくあること。いつものこと。ホスト崩れで女の家を渡り歩いている無職の俺にとっては、日常の出来事。その日も飲み屋でテキトーに口説いた、顔は普通だけど胸がでかい女とその辺のラブホテルで一夜を過ごした。

 朝目覚めると女はいなくなっていた。代わりに、鏡に口紅でこう書いてある。


『十乙の世界にようこそ!』


 ……わからん。十乙ってなんだ。読みは「じゅうおつ」なんだろうか。そんな単語、見たことも聞いたこともない。だというのに、何故か妙な既視感がある。

 しばらく考えて、思い出して青ざめた。まさしく昔暇つぶしに読んだ話と同じ状況だ。

 見知らぬ女と一夜を共に過ごし、朝になると女は消えていて、部屋の鏡に「エイズの世界にようこそ!」と書かれているという、性病のエイズを題材にした都市伝説。

 十乙というのはよく分からないが、もしかしたら性病の名前かもしれない。

「ふ、ふざけんじゃねえぞ!」

 叫ぶ。けど当然何か反応が返ってくるわけはない。俺は慌てて身支度をして部屋を出て、スマートフォンで性病の検査を受けることが出来る場所を探して────違和感。

 指が、縮んでいる。

 左の親指と右の人差し指が、みるみるうちに縮んでいく。他の指もじわじわと細くなっていき、その変化に追いつけない皮がだるんと余って垂れている。

「ひっ」

 声も違う。いつもの声じゃない。胸が破裂しそうなほど膨らんでいく。足の左右の長さが違う。髪と歯が全て抜けた。そしてすぐあとに、全て新しいものが生えてきた。

(なに? なに? なに? なに?)

 混乱。恐怖。まともに歩くこともできず、俺はただ蹲って涙を流し、死を覚悟した。


*******


「みんなありがとぅーーーーー!!!!!!!!! せーのっ」

「ユッカリーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!!!」


 数年後。期待の新星、アイドルの鏡ユカリの日本武道館での初ライブは万雷の喝采で締められた。

「ユカリちゃん良かったよ~! 大成功だ!」

「わあ! やったあ! みなさんのおかげです!」

 ユカリはスタッフに挨拶をしながら、控え室に戻る。道中、みんなユカリに笑顔を向けてくれる。ユカリちゃんかわいいと言ってくれる。ユカリちゃん。ユカリちゃん。ユカリユカリユカリ。

 いや本当俺、何やってるんだろうな。

「だぁーーーーーーーーーー!!!!!!!! なんだってんだーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

 控え室で吼える。なんで俺はこんなことをしてるんだ。なんで数年前までは女をとっかえひっかえしてダラダラ生きてたのに、今ではオタク向けアイドルとして武道館まで上り詰めてるんだ。

 なんで俺は今、“女“として生きてるんだ。

「あっはっは、いいじゃない、ホスト崩れの無職より」

「須藤ォ!」

 マネージャーの須藤がうざい。唯一俺が男だと知っているのに気を遣う素振りはゼロだ。むしろ男心を知ってるんだからもっと攻めたアピールをしろとかいうド畜生だ。

「ダメだよぉ。よく知らない女と寝たら。何を仕込まれるか分かったもんじゃない」

 ああそうだ。こうなったのも全てあの日のあの女のせいだ。どんな化け物か知らんが人の人生を弄びやがって。あんなメッセージ残すとか愉快犯に決まってる。何が十乙だ。字が汚すぎるんだよ。その上アルファベットを書き間違えてるんじゃねえ! 逆なんだよ!


『TSの世界へようこそ!』

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