悪縁切り
「昔さ、女の人に物凄く恨まれるようなこと、した?」
そう、三島に問われた。
単に恨まれるとか逆恨みとかなら死ぬほどあるだろうが、「物凄く」恨まれるとなると心当たりは減ってくる。
その中でもダントツは……まあ御山の母親の件か。救急車呼ばなかったやつ。えー、だってあっちが悪いじゃん。ほっといたら絶対御山に手ぇ出してたじゃん。逆恨みだぜそんなの。
それはそれとしてどうするかだ。とりあえず三島には曖昧な返事でうやむやにした。いくら三島相手とはいえあの件は"ひみつ"なのだ。親友の証なのだ。例え三島だろうが絶対に知られるわけにはいかないのだ。しかし、このままだと三島と俺の関係は"後ろの"が原因で多分進展しない。嫌だよな悪霊(仮)背負ってる男とか。
「霊能者に頼むとか? うわ、うさんくせー」
三島のことは信じてるが他の霊感持ち・霊能者なんてうさんくさいことこの上ないと思っている。さてなんか手はないかとネットを漂っていると、匿名の掲示板で一つの書き込みを見つけた。
『仙台市の悪縁切りの***神社、すごくよく効くよ。あそこの神様は悪人が大嫌いだから、DV家族とも、いい顔して近づく詐欺師とも、見下してくる友達とも、なんだって縁が切れるの』
(……死んだやつと縁って切れるのか?)
切りたい対象がオカルト案件な以上、こっちもオカルトで対抗するしかない。まあ、神社なら嘘か本当かもわからない霊能者にすがるよりマシだうと、休みの日に一人でそこへと訪れた。
「うわ」
……神社は小高い丘の上にあり、鳥居の前には長い長い石段が無言で圧をかけてきた。
「……のぼりたくねえ」
体力に自信はあるが妙に気は進まない。しかたなく一旦近くの喫茶店でパンケーキとアイスコーヒーに舌鼓を打つ。しかし十分に休み皿もカップも空になったというのに、気の進まなさは変わらなかった。
「……行くか」
せっかくここまで来たのだ。石段ごときで諦めてたまるかと無理矢理奮起して、喫茶店を出る。
「おはよう」
「……お、おはよう」
告げずに出てきたはずなのに、三島が店の前で待っていた。
*****
「ここの神様は悪人が大嫌いなの」
「……うん」
「だから、悪人なのに悪縁を切ってほしいなんてわがままな人が来たら罰を与えちゃうの。神様の罰は怖いんだよ」
「悪人って、俺そんなこと言うほどかあ?」
「今までに誰かに暴力をふるったことって何回ある?」
「……………はい」
覚えてません、と白旗を上げる。
「不動くんがここに来たら困るなって思って、ここの草むらに住んでる脳みそいじりさんにお願いしてたの。不動くんが来たら、脳みそいじって足止めしてって」
「今すげえ不穏なこと言わなかった!?」
「脳みそいじりさんは脳みそをいじるの。それでちょっとだけ、一時的に"やる気"をいじるの。でもそれぐらいしかできないよ」
ちょんちょん、と指でつつかれる。
「不動くんの所有権は私が持ってるから、それと合わせてようやく私が追い付くまで足止めできるぐらいだよ」
実際振り切って喫茶店から出てきたでしょ? とのことだ。たしかにそうだ。たしかにそうだが……。
「すごいことをされた……」
「別に、そんなことないよ」
ほら、と三島に軽く押される。鍛えてるはずの俺の体はあっさりと石段のわきの土手に転び、起き上がろうとしてもやる気が起きない。
「弄ぶしかできないよ」
「その言い方は興奮してきた……」
「変態」
はぁ、と呆れたように息を吐く。
「今度からどこに行くのか、ちゃんと教えてよね、もう……」




