ねえ、どうなの?(後編)
ふと、フラフラと歩いている男の人を見つけた。
その人は同じクラスの子で、派手でいっつも騒いでるうるさい人。でも明らかにお化けにとり憑かれていて今にも高いところから飛び降りそうで、それは少しかわいそうかなと思って、助けてあげたのだ。
初めて不動くんとまともに話したのは、多分このときだったと思う。
*****
「……まあ、そんなこともあったけど」
高校一年生のとき、偶然お化けにとり憑かれていてマンションから飛び降りようとしていた不動くんを助けた。
「惚れたね。運命を感じた」
「……そりゃ、そのくらい」
「ああ、"そのくらい"だ。俺はぁ、お前が当たり前と思っていて、美点と感じていないようなポイントで好きになったの。
お前の視点でしか語れないドッペルゲンガーには分からないところが好き」
「……………………」
「だからまあ、気にすんなよ~」
ね? と微笑まれる。
「……美点のことはわかったけど。欠点は欠点だよ。いいの?」
私に友達がいないのも、暗いのも、事実なのだ。
「それ言ったら俺はメンメンメンヘラだし、欠点だって死ぬほどあるだろうし?」
お互い様だな、と口の端を上げる。
「だいたい欠点がない人間なんていねえだろ多分」
「まあ……そうだろうけど」
「そうそう気にしすぎるなよ。さっさと映画行って気分転換しようぜ。それとも先に……」
鎖の音がした。
「……ん?」
「…………………………………」
大学生の自室に見合わない金属音。不動くんにも届いたのか怪訝そうな顔をしている。
でも、視えてはいないようだ。視えていたら大騒ぎしていることだろう。
それは不動くんと距離を置こうとした最大の理由。そして不動くんに理解されるかどうか怪しいもの。
それはずっと不動くんの背中にいて、ずっとその手に赤い鎖を持っている。それらは四方八方に伸びていて、その一本は私に巻き付いている。
『あなただってわかってるでしょ。
あれは不動くんを不幸にする人に繋がってるの』
昨夜ドッペルゲンガーが言っていた言葉。それが当たっていたら、不動くんの意思と関係なく、何かはわからないが私が不動くんの"不幸"のトリガーになるかもしれない。
「あのさ」
「うん?」
「昔さ、女の人に物凄く恨まれるようなこと、した?」
不動くんの顔から、笑顔が消えた。
*****
『ヘイラッシャ』
『お黙りだよ!!!!!』
どこからか入り込んだバラムツ料理店店主を部屋から追い出す。あの店主のことは本当に苦手だ。
『ああもう、良い気分だったのに台無しだよ!!! プンプン!』
ああせっかく、"新作"ができたっていうのに。
『さて、今度は誰の手に渡ってくれるかな?』
数百年ぶりに作った"赤い鎖"が、電灯の光を浴びてキラリと光った。
ブクマ・評価・感想等いただけたら嬉しいです。




