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ねえ、どうなの?(前編)

「お母さんはなんでお父さんと結婚したの?」


 小学生のとき、そう尋ねたことがある。

「優しくて、料理の好みの味付けがいっしょで、いっしょにいて気が楽だったからかな。おっちょこちょいなところもかわいいと思ったの」

「……おっちょこちょいって悪いことじゃないの?」

「あばたもえくぼって言ってね、好きになるとその人の欠点もかわいく感じるの」

「……? ふーん……」

「千花もね、恋をしたら分かるわ」


 大学生になったがいまだにその気持ちはよくわからない。子供のときは好きな人もいたが最終的には嫌な思い出となってしまうので、かつてそういう気持ちを抱いていたとしてももう思い出せないのだ。

「三島は絶対俺のこと好きだよ」

 ……"気分が良い時期"の戯れ言ではあるだろう。ただ、好きと考えられてもおかしくない要素はある。異性相手なのに警戒心がないとか、まさしくうだろう。

 不動くんが知らない異性と仲良くしていたときのあのどうしようもない苛立ちも、恋とするなら納得はできるが、あまりにも醜くて受け入れがたい。かといって、恋でないならばあの苛立ちの正体が分からない。

 だいたいあばたもえくぼと言うが、不動くんの外見はともかく暴君攻撃的粘着質情緒不安定ストーカー気質異常性癖をかわいいと思ったことは一度もない。

 ……なんで不動くんと友達を続けているのかすらよく分からなくなってきた。疲れた。

「寝よ……」

 夜。自室。答えのない考えを巡らしてもなんにも良くない。とっとと寝てしまおうと、電気を消してベッドに潜る。そう易々と眠れないため、暗い暗い部屋の天井をずっと眺めて……。


 みし……


 足音がした。そして同時に、体が動かないことに気付く。

(ああ……やだ……)

 夜中の金縛り。人の気配。こういうときは……悪いドッペルゲンガーが来るのだ。

『ねえ』

「…………………………」

 宵闇の中で、光源もないのにその姿……ベッドのそばに立つ、『薄笑いした自分』だけははっきりと分かる。

 ドッペルゲンガーにも有害なもの無害なもの、いろいろといるがこれは悪い方だ。伝承にあるように命はとってこないが、金縛りで動けないことをいいことに"自分の悪いところを朝まで延々と吹き込んでくる"のだ。

 耳を貸してはいけない。自分の欠点を指摘され続けて普通に気分が悪くなるからだ。

『不動くんはさ、欠点がいっぱいあるよね』

「……………………」

『暴君で、攻撃的で、粘着質で、情緒不安定で、ストーカー気質で、異常性癖なの』

「……………………」

『ねえ……自分は?』

「………………は?」

『自分は、どうなの? ねえ、暗くて、友達がいなくて、周りに合わせることができなくて、一人ぼっちの三島千花ちゃん』

「……………………っ」

 自分と同じ顔をした女は、薄く笑う。

『不動くんは、難があるけど友達はたくさんいるしいろんな子に好かれてるよ。欠点を承知で昔から仲良くしてる人がたくさんいるの。

 ……ねえ、自分は?』

「………………………」

『ねえ、どうなの? ねえ』

「………………………」

『その上、不動くんを友達としてキープしておいて嫉妬はするとか、どうしようもないよ。性格が悪い』

「………………………っ」

『ねえ…………………』

 ドッペルゲンガーの手が、顔に触れる。

『あなたのいいところは、顔だけ。かわいいお顔。年を取ったらしわくちゃになるけどね』

「………………………」

『ねえ……お話があるの』

 闇の中で、笑みだけははっきりと見える。

『ドッペルゲンガーに出会ったら……死ななきゃいけないの』



*****



「ん~?」

 SNSでも電話を掛けても、三島と連絡がつかない。

「まだ寝てんのか? 映画行くのに、寝坊とか珍しいな」

 しょうがないか起こしてやろう、と俺は外へ出た。

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― 新着の感想 ―
[一言] お、これはカプ厨である俺得な展開になるか!?
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