夢のあと
今は雌伏のときなのだ。
武士の時代は終わった? 否、否、否……。
まだだ。まだ終わらぬ。力が足りぬのは認める。だが今に海の外の者など追い抜いて、再び武士の時代を、いや新しい武士の時代を作り上げる。我らの手で作り上げるのだ。
資金はここに隠しておく。各々目標を達成したらここに再び集まり……。
*****
穴を掘る。運動不足の体には堪えるが、その先にあるものを目指して土をひっくり返す。
「!」
シャベルの先が固いものに辺り、スピードを上げて土を避け続けると、その末にあったのは古めかしい木箱だった。
「……!!!」
もっとも、中身は空だったが。
「……な~にしてんだお前。子供か?」
「夢が破れたんだよ」
土の上で大の字になって虚空を見つめていたところに祖父がやってきた。土にまみれた孫と違って、しゃんとしていて着物を着こなした紳士である。
「ここに埋蔵金があるって夢をさあ、見たんだよぉ」
「なんでもいいけど、ここは俺の山だぞ。勝手にひっくり返すな。ちゃんと埋めろ」
「へーへー」
「一攫千金なんて夢見てねえでちゃんと働け。人間真面目にこつこつとやらねえといけねえってのにお前は」
「働いてるよぉ。毎日鍋振ってる」
家の裏にある祖父所有の山。そこに武士が金を埋めたという夢を見たので期待を膨らませてシャベルを担いできたのに結果は空の箱である。先祖が武士だと聞いていたから、期待をしていたのに。
……いや、待て……。
「………………………」
箱があったということは、今はともかく最初は中身があったということだ。
「じいちゃんさあ」
「ん?」
「戦争終わって闇市で大儲けしたって言ってたじゃん」
「おお。舶来品を仕入れて高値で売り抜けたのよ。その金で俺はお前も働いてる今の店に繋がる洋食屋を始めて、これが当たってなぁ」
「戦争で全部焼けたってのにさ、舶来品なんて仕入れる金なんてどこで手に入れたんだよ」
ぴた、と祖父の口が止まる。ややあってから、にんまりと笑う。
「さぁなぁ」
「………………あー……………………」
賞味期限切れの夢なんて見させないで欲しい。何もかもやる気がなくなった俺は、ごろんとまた土の上に転がった。
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