三島の所有物
「なんでそんなあからさまに危ないところに行くのかな」
目の前の三島は非常に不機嫌である。それは全て俺が好奇心で「完全自殺読本」なるものに書かれている場所を訪れ、命の危機だったのをギリギリ三島に助けられたのだ。
「すみませんでした……」
「これ、捨てておくから」
「完全自殺読本」は既に三島の手に渡っている。俺だってちょっとどんな場所か見たかっただけで、おそらく化け物が飯を探している場所だなんて思わなかったのだ。そんな危ないものを書いてある本を手放したって後悔はない。
「でもさあ、なんで分かったんだよ」
多分食われる寸前だったところに電話がかかってきて助かったけど、三島には何も言わずに出発したのかな、なんで分かったんだろう。
「あそこのお化けが聞いてきたの。食べていいかって」
「なんで三島に」
「前に名前を書いてあげたでしょ」
「あー……」
そういえば前に変な化け物に絡まれたとき、背中に三島の名前を妖精のカッターとやらで刻み込まれたのだ。鏡で見たって俺にはただの背中にしか見えないが、霊感がある三島や化け物どもには三島の名前が書いてあるのがばっちりと読み取れるらしい。
それはつまり俺は三島の所有物なので、あの廃屋の化け物は食ってもいいかちゃんと三島の許可を取りに来たということだ。
すっかり忘れていたが、それは今思えば……。
「ん~……んふふ、なんか三島のモノってかんじでいいなぁ」
「マゾなの?」
「好きな娘のモノになりたいって男心だって。俺はお前のもの。そうそれでいい。"俺は三島のモノなんだから、三島が言うならなんだってしてやるとも"。三回回ってワンと鳴いたっていい」
「あーあ……」
呆れ果てたような顔。もう何度も見たような顔だ。
「あのさ、自分をモノ扱いするとモノになっちゃうんだよ」
「ん?」
「"おすわり"」
へたり、と急に足に力が入らなくなってその場に崩れ落ち、座り込んだ。
「え?」
「"こっちに来て"」
頭は事態が飲み込めなくてぼんやりしているのに、体は三島の言う通りに動く。三島が「これでいいか」とキッチンの魚焼きグリルを開ける。
「私のモノなんだから好きにしていいよね」
「ちょっ」
「"ここに入って"」
「ま、待てって、絶対入らねえよ!」
だというのに、腕は言うことをきかなくて、爪先がグリルの奥に当たり、手の甲が当たり、入るわけがないのに全身が箱に入ろうとして……。
「"止まって"」
そして三島のその一言で、体の力が一気に抜けた。
「自分をモノ扱いしてね、自分の所有権を完全に放棄するとこうすることもできるんだ。私が所有者だから、好きにできるの」
「俺の意思は!?」
「モノに意思なんてないでしょ。自分をモノ扱いするってそういうこと」
頬を軽くつねられた。
「嫌だったら、自分はモノじゃないって言いなよ」
「俺はモノじゃありません……」
「そう。えらいえらい」
無表情で頭を撫でられる。今更ながら、とんでもない女を好きになってしまったんじゃないかと考えてしまった。
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作中で言及してたのはこの回です。
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