だらしない友達
だらしない友達だった。
ちょいちょい遅刻はするし服の裾が中途半端にズボンに入ってたりするし寝癖がついていたりする。組立式の家具を説明書とか読まずになんとなくで組み立て始めて「やっぱ無理だわ」って笑ってるようなやつだった。
ただ話は面白くて明るくて美味い店をたくさん知っていて、とにかく欠点なんか気にならないくらい楽しいやつだった。俺は。
なかにはあいつはだらしないから付き合いたくないとか言って離れるやつもいた。まあ、遅刻はしないほうがいいし服装や髪型はちゃんとしたほうがいいし、説明書はちゃんと読めとも思う。
けどやっぱり、友達として楽しいところのほうが強かったからずっといっしょにいた。
「この部屋だっけ?」
「そう」
そんなあいつと誰も連絡ができなくなった。電話もメールもアプリもSNSも全部ダメ。不安になって、数人の友人と一緒に自宅を訪れることにした。インターフォンを押しても返事はなく、ドアノブを捻るとあっさりと開いた。声をかけても反応はなく、電気のついていない昼間でも薄暗い部屋へとはいる。
説明書をろくに見ずに作って少し歪んだ靴棚、水が溜まった食器が重なってるシンク、袋ラーメンの空袋が置きっぱなしのキッチン。いつものあいつの家。
「おい、どうしたんだよ」
声をかけながらリビングへ続くドアを開けると、
「え?」
何もなかった。
テーブルも、テレビも、ベッドも、パソコンも、棚も、乱雑に積み上げられていた本やゲームも何もかもがなかった。ただ引っ越したかと思うほど、何もない床があった。玄関やキッチンは、今まで通りだったのに。
「おい、なんだそれ」
「ん?」
足元に、紙が落ちていた。もしや手がかりになるかと思い、それを広げる。
『ドキドキさんのなぁ~~~~んでも掃除機!!!!!!!!』
……掃除機の説明書のようだ。みんな一瞬で興味を失って、声をかけながら他になにかないか捜索を始める。
探している途中、手に持っていたままの"説明書"が邪魔になったので、キッチンのゴミ箱に捨てる。捨てる間際『手順を守って使ってね!!!!!!ドキドキさんとのお約束だよ!!!!!!!』との一文が目に入ったが、当然記憶に残すほどでもなく、ゴミ箱の中に消えていった。
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