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タンスの下

 不動くんが住んでいる家は親戚から借りた家だ。


「家具とかそのまま使うの?」

「残してあるのはな。さすがに高いし。まあ古臭えからいつかは買い換えたい気持ちあるけどさ」

 そのタンスとか、と指したさきにあるのは使い込まれた古そうな色合いのタンスだ。今いる畳の部屋には合っているといえば合っているだろうが、大学生の若者の感性にはピンとこないだろう。

「中に何かはいってるの?」

「いや、中身は処分したって聞いてる。ほら、だから簡単に持ち上げられるくらい軽いぜー」

 そしてひょいと持ち上げると、下にあった畳に赤黒い染みがあった。

「…………………」

「…………………」

 無言でタンスをずらす。幻覚でも見間違いでもなく、嫌な色をした染みが畳を染めていた。

「カズレーザーか?」

 死体の染みつきの事故物件で暮らしたとき、畳の位置を入れ替えて染み付き畳は家具の下敷きにして平穏に暮らしたという逸話を持つ芸人の名前がでてきた。

「聞いてねえぞ」

「大丈夫だよ。これ、そういうのじゃないって妖精さんが言ってるもん」

「妖精さん?」

「血の妖精さんは血のあるところにやってくるんだよ。それが過去のものでもね」

「趣味悪……いや、うん。で、そういうのじゃないって?」

 赤黒い染みは三つある。

「これは、ただの鼻血だって」

 一番小さい染み。本当に無害なものだ。

「こっちは、昔この家に住んでた人が怪我したときだって」

「あー」

 それを聞いて、思い出した、といいたげな顔をした。

「そういやなんか聞いたことあるわ。なんかカッター使ってるときに深く切っちゃって病院いくはめになって大変だったって」

「じゃあそれかな? で、これはね」

 最後の染み。一番大きな染み。

「示談になったって」

「…………………………………………何が」

「血の妖精さんったら面白がって教えてくれないの」

「そいつらどの辺にいる? これで潰していい?」

 空とはいえ質量があるタンスを持ち上げる。

「逃げちゃったよ」

「ちっ……なんだよ示談って聞いてねえよクソが」

 不動くんはイライラしてどこかに電話し始めた。多分家の持ち主の親戚のところだろう。

 畳って交換するのにいくらかかるのかなあ、と過去の証を眺めながらぼんやりと考えた。

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― 新着の感想 ―
[一言] 「不起訴」とかじゃなくて示談なのマジで正体不明で怖い
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