ぐーぐるまっぷ
ぐーぐるまっぷ、という声が聞こえた。
振り返ると、そこにはお化けが立っている。大人の男の人ぐらいの大きさで、全身が黒くモジャモジャしていて、顔らしき部分に大きな一つ目があった。
『ぐーぐるまっぷ……』
「Googleマップ?」
『見たい……』
お化けいわく、かつての思い出の場所に行きたいが、道がわからないようだ。そして人間が使っている『ぐーぐるまっぷ』が道を教えてくれると小耳に挟んで、霊感がある私のところにやってきたらしい。
「どこに行きたいの?」
『はな……はながあった……いっぱい……』
「えーと……お店とかなかった?」
『おみせ……』
お化けからいろいろ話を聞いて、なんとかだいたいの場所を割り出す。Googleマップを開いてみるが、地図だけではピンとこないようで首をかしげている。
「これならわかる?」
『おー』
ストリートビューを見せると手を叩いている。付近を移動させてみると、『あ』と声が上がった。
つん、ともじゃもじゃの中から出した手のつま先で、画面をつつく。つついた場所には、親子らしき通行人が歩いていた。
『これ、いま?』
「リアルタイムじゃないよ。でも最近建った建物が映ってるし、最近のものだね」
『ふぅん。ふぅん』
お化けは満足そうに目を細めながら、じっと親子を見つめている。
『げんき。げんき。みんなげんき』
ぱちぱちと、拍手をしている。
「……そろそろいい?」
『ありがとね』
風のようにふっとお化けは消えた。お化けがいた場所に、お礼と言わんばかりにピカピカの木の実とピカピカのビー玉とピカピカの500円玉が置かれている。……旧500円なんて今時どこで拾ったんだろう。
あのお化けの思い出がなんなのかなんて聞いてはいないが、きっと悪いことにはならないだろうと確信があった。




