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死に場所はどちら?

 死のうと思った。


 私は昔から何もかもがダメだった。地味で、勉強も運動もできなくて、趣味もなくて、おしゃべりも苦手で、友達もいない。

 何よりダメなのが要領が悪いことで、よく人に迷惑をかけてしまう。例えば、駅で電車に乗ろうとしたら改札の真ん前で立ち止まって切符や定期を探し出して、後ろにいた人たちが他の改札に移動し始めたときにようやく邪魔になっていることに気付いて慌てて邪魔にならない位置に行こうとして、転んでカバンの中身を全部ぶちまけるような、そんな人間。

 だから、誰にも愛されない。友達も恋人もいない。親すら、私よりはるかにまともな兄弟ばかり目をかけて、私のことなんか「あれ、いたの?」といった扱いだ。

 だから、死のうと思って、首を吊ろうと思って、死に場所にいい場所はないかと探して──そんなときに、住宅街に不自然な、美しい花のアーチを見付けた。

『まあ、ニンゲンだわ!』

「う、あ……」

『ニンゲン! ニンゲン! 歓迎するわ!』

 アーチをくぐった先は、美しい花畑。そしてそこにいたのは、まるで絵本に描かれていたものがそのまま抜け出してきたような、小さくて、羽が生えた妖精のようなもの。

「あ……」

『お腹は空いてない? 私たちの村にはお客様に出す伝統のパイがあるの!』

 たくさん集まってきた妖精が、茶色い丸いものを持ってくる。

『さあ、妖精のパイはいかが?』


 そして私は死んだ。

 私は幽霊となって、じっと自分の死体の行き先を眺める。肉は解体されて食料へ、皮はなめして皮製品に、歯は研いで武器になり、血は薬や肥料に、骨は家具や装飾品に、髪は縫い物編み物に使うという。人間に捨てるところはないそうだ。

 全部、全部知っていた。知った上で、ここにきた。

「本当に良かったの?」

『あ……』

 妖精ではない、かわいい女の子が私の隣に立つ。『霊感少女』で有名な、同級生の三島さん。彼女がクラスメイトらしき男の子にこの花畑の妖精の話をしていたのをたまたま聞いて、勇気を振り絞って、詳細を尋ねたのだ。

『良いよ……最初から死ぬ気だったし……』

「でもここじゃお墓に入れないよ」

『遺書は残してきたし……それに、私が普通に死んでも、とりあえずお葬式出されて終わりだと思うから……』

「………」

『だから……』

 歌が聞こえる。妖精たちの鎮魂歌。自分たちが生活のために仕留めた獲物────つまり私が、迷わず天国に行けるように祈る歌。

『こんな風に、誰かの生活のために役に立てて、祈ってもらえるのなら、これが私の一番いい死に方だと思う』

「…………」

 お母さんの妖精たちが、子供に肉の保存の仕方を教えている。斧を作る職人が、歯の加工の仕方を若い職人に教えている。足を引っ張ってばかりの人生だったけど、ようやく私は、誰かの役に立てたのだった。

「天国には、早めに行った方がいいよ。時間が経つと、行き方が分からなくなるらしいから」

『そうなんだ。じゃあ行くね。……いろいろ教えてくれてありがとう、三島さん』

「いいよ、別に。じゃあね」

 三島さんは無表情に、でも手を振って見送ってくれた。妖精たちの美しい鎮魂歌を聞きながら、私はふわりと体を空に浮かせた。

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