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世界を滅ぼす呪い

世界を滅ぼす呪い


 かつて世界を滅ぼす呪いがあった。


 それを産んだのは、様々な事情座敷牢で一生を暮らすことになった一人の人間。幼少の頃より豪華な屋敷の地下にある、日の光が差さない座敷牢で死ぬまで過ごすことが決まっていた。

 憎い。

 恨めしい。

 かつて座敷牢に入る前に見たことのある、庭に咲き乱れる花のなんと鮮やかなことだったか。肌を撫でる風のなんと心地よかったことか。太陽の光のなんと輝かしかったことか。青い空の、なんと高かったことか。

 きっと生まれたときから座敷牢に入っていて、それらを知らなかったのなら怨むこともなかっただろう。だが、幼少のときのわずかな記憶であっても、それは鮮やかに頭に焼き付いている。

 憎い。

 恨めしい。

 自分からそれらを奪った人が憎い。自分からそれらを奪った家が憎い。自分からそれらを奪った村が憎い。

 自分からそれらを奪った、世界が憎い。

 憎くて憎くて憎くて、そして座敷牢の中ではそれらを膨らませることしかできなくて、やがて本人すら知らないうちに、呪いが生まれた。

 それは全てを奪う呪い。美しいもの、愛おしいもの、全てを奪われた者が作った、全てを奪われる呪い。結果として、それは世界を滅ぼす呪いとなった。

 呪いは世界を呪い、世界から美しいもの、愛おしいもの、全てを奪った。もうそこには何もない。呪いを産んだ本人ですら、あまりにも強い呪いに体を蝕まれ、命を落とした。


 *****県の山中に、草木が一本も生えぬ土地がある。学者が研究したが、なんでそんなことになったか全く分からなかった。そこには何も生まれない。ただ分かるのは、記録上はかつてそこに村があり、何かの理由で誰も住まなくなったことだけ。草木が生えなくなったから村人がいなくなったのか、村人がいなくなってから草木が生えなくなったのか、誰も知らない。

 一生を座敷牢で過ごした人間の"世界"はあまりにも狭かった、ただそれだけの話である。


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