表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
384/548

噂話の幽霊

 とある山に、幽霊がでるという。


 今は衰退して過疎地だが、その山は鉱山で、明治や大正、昭和初期くらいには麓の町が大いに賑わったそうだ。町の発展とともに大きな病院も出来たが、あるとき大きな地震が起きて、それに伴って起きた土砂崩れで何もかもが埋もれてしまった。ちょうど土砂が流れ落ちる場所にあったその病院の患者、医者、看護師は全て亡くなったらしい。

 だから、その場所には幽霊が出るという噂がある。そこに行くとあるはずのない病院が建っていて、中では入院着の子供が遊んでいたり、白衣の大人が机に向かって何かを書いていたりするという。

「ふぅん」

 "霊感少女"の私は興味を持った。みんなにも視える幽霊。その噂は真実なのか、知りたくなった。当時小学生だった私はお小遣いを握りしめて電車に乗り、"そこ"へ向かった。

「へえ…………」

 たしかに、"そこ"に病院はあった。私の霊感は強すぎてあまりにもお化けがはっきりと視えるものだから、目の前にあるものがこの世のものなのかそうでないのかが区別できないのだが、そこにいた"幽霊"たちの着ているものは明らかに前時代的なものであり、物品も社会の教科書に出てきそうなものがたくさんあったので、これは建物まるごと幽霊なのだなとすぐに分かった。

『あなただぁれ?』

「町から来たの。ここはどこ?」

『病院だよ』

「あなた、病気なの? 元気そうなのに」

『心臓がね、悪いんだって。大人になるまえに治さなきゃいけないんだって』

「そうなんだ」

 患者の女の子の幽霊が話しかけてきた。女の子はニコニコと笑って、ここは大きな病院であること、お医者さんも看護婦さんもみんな優しいことを話してくれた。

 自分が死んでいることを理解しているか興味があったが、そこは聞かないでおいた。和やかに雑談をして、何事もなく暗くなるまえに家に帰った。

「……あれ?」

 ネットでその病院の噂話について調べてみた。噂とこの目で見た真実とどれくらい解離があるか気になったのだ。そして日本各地のオカルト情報を収集・解析・考察している物好きのホームページに行き当たったが、そこでは調査の結果、そんな病院は存在しないということになった。

 土地の過去の記録を見ても、そこには病院どころか建物が建てられた形跡がないという。そして、地震の際には土砂崩れで近くの集落にて死者が多数出ており、また同年に山ではなく、町のど真ん中の病院に飲酒運転の車が突っ込んできたことにより、死者が出ていた。ホームページの主は、これらが人々の中で語られるうちに混ざり、『山の中にある病院の幽霊』という噂話が出来上がったのだろうと考察していた。

 そんなわけはない。この目で"視て"いる。でも、建物の記録すらないということはどういうことだ。

「千花~、おばあちゃん来たわよ」

「はーい」

「まあ~、千花ちゃんは今日も本当にかわいいわね~」

 別の町に住むおばあちゃんが遊びにやってきた。そういえば、あの町はおばあちゃんが住んでいる町だ。聞いてみよう。

「もう、この子ったらお化けの話ばっかりなんだから」

「いいわよお。そうねえ、あたしはよく知らないけど、あたしの母さん……千花のひいおばあちゃんがねえ、言ってたわ。

 『山の中に、不釣り合いなくらいとっても大きな建物があった』って。その病院のことじゃないかしら。戦争が終わったあとのことだから、そのときにはもう廃墟だったようだけどね。迷ったときに見つけたそうよ」

「ひいおばあちゃんも、お化けがみえる人?」

「さあ? そんな話は聞いたことないけど……。それにね、あんまりに山に不釣り合いだったから、ちょうどよく持ってたカメラで写真も撮ったって言ってたわよ。でもそのホームページ? では建物の記録もないって言ってるのよね。まあ、むかーしの話だからねえ、きっと戦争で記録が燃えちゃって、土砂崩れで建物もぜーんぶ埋まっちゃったんじゃないかしら。

 一番大きいのはさっき千花が言っていたやつだけど、あの山、他にも何回か土砂崩れ起こしたことあるのよ」

 なるほど。それなら納得がいく。たしかに戦争で資料がなくなることぐらいあるだろうし、過去に複数回土砂崩れを起こしているのならそのうちのどこかで埋まっていてもおかしくはない。

「お化けよりもね、お菓子食べましょう。すっごく美味しいクッキーを持ってきたの」

「そんなに美味しいの?」

「とっても美味しいわよ~。いっしょに食べましょうね~」

 お化けよりも美味しいクッキーの方が大事だ。私はお化けのことは忘れて、おばあちゃんとのお茶会を楽しんだ。


 ……それがもう、何年前だろうか。

 多分"これ"がその曾祖母が撮った写真なのだろう。お母さんが押し入れを掃除すると言って押し入れの奥の奥で見つけた古めかしいアルバムに入っていた、とっても古い写真。写真の裏に書かれた日付は、たしかに戦後のものであり、廃墟だとしても山の中にあるには不釣り合いなくらい立派な立派な大きな建物。

 ただ、入り口の門につけられたプレートには、病院ではなくこう書かれている。

 『大日本帝国**********研究所』

 記録のない建物。"病院"にいた元気そうな子供。山の中に不釣り合いな建物。大日本帝国。研究所。

 さて……多分触らない方がいい、厄ネタなのだろう。くしゃっと丸めて、ゴミ箱に投げ入れた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
script?guid=on
― 新着の感想 ―
[一言] 負号部隊ですね分かりますとも
[一言] 結局人間がいちばん怖いという
[一言] 人体じっ…いやあなんなんでしょうね(すっとぼけ)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ