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救い

 某所の廃トンネルには"救い"がいる。


 それは見る者によって姿が違う。"救い"が姿を変えているのではなく、見る者の心を反映した姿が瞳に映るのだ。"救い"の本当の姿は誰も知らない。まるで、鏡の色がわからないように。

 ある妖精さんは巨大な本に見えるという。ある妖精さんは美しい花畑に見えるという。あるお化けはおいしい食べ物に見えるという。あるお化けは穏やかな海辺と砂浜に見えるという。ある霊感がある人は美しい異性に見えるという。

 私には、「消滅」という文字が空中に浮いているように見える。

 "救い"の姿の見え方はそれぞれだが、辿る先は同じだ。"救い"に触れると、頭がぼんやりとしてきて、その場にへたりこむ。そして、"救い"に包み込まれるのだ。包み込まれる様子は、例えば"救い"が人型に見えるのなら優しく抱き締められるように、美しい場所に見えるのならばその場所にいつの間にか移動して寝転んでいるかのように、ともかく「心地よい」と感じるような形で、"救い"に包み込まれる。そして次第にうとうとと眠くなって、例外なくみんな眠る。

 補食である。

 "救い"は生物である。脳のような思考を司るものに干渉して、自分の元へ近寄らせる。そして自分の手の内に入れたあとは、過剰な幸福感を与えて動けなくし、幸福感に浸っているうちに感覚や知能を失わせて、あとはゆっくりと食べる。そこまでやる理由の全ては、かかった獲物を逃がさないため、ただそれだけだ。"救い"自身はどうもかなり動きが鈍いらしく、動かずに獲物をとらえることに特化したようだ。

 これらは魔法を使える妖精さんたちの研究者が長年の研究で解明したものらしい。妖精さんやお化けもみんな知っている。研究者たちはともかく、みんなは"救い"をこう考えている。

 あそこに行くと、楽に死ねるぞ、と。

 実際妖精さんの一部は安楽死のために、"救い"にもう病や怪我で確実に助けられない妖精さんを捧げることもあるらしい。年を取ってもうろくに動けない老いた妖精が、生前葬を終えて"救い"に身を捧げる文化がある妖精さんの村もあるようだ。そして普通に、何かで悩んだ末の自殺に使われることもある。

 みんなこう考える。何があろうが、"救い"があるぞ、と。死のうと思えばいつでも死ねる。それも、安らかな死を迎えられることが確定している。

 だから、妖精さんたちやお化けは苦しいときには"救い"のことを思い出して奮起する。安らかな死なんていつでも迎えられるんだから、もう少し、限界まで頑張ってみようと。だから案外、若いのに自殺する妖精さんは少ないらしい。

 あらゆる意味で、"救い"は"救い"なのだ。おそらく当の"救い"はそんなこと考えていないだろうが。

 私は。

 ……………………。

 廃トンネルなんて普段行くところではない。だから最後に"救い"を見たのは、暇をもて余した中学生の頃だ。いつだって"消滅"の二文字が浮かんでいた。

 ニュースで芸能人の○○が自殺、といった記事を見て"救い"のことを思い出した。今行ったら、何が現れるんだろうかと、ふと思う。

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