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代償

 高一の頃の話だ。気まぐれで同じクラスの男の子を助けた。


 明らかにお化けにとり憑かれていて、そのまますぐに死んじゃいそうでかわいそうだから助けたのだ。そしたらその子、つまり不動くんは私のことを好きになったらしい。それで学校だろうが通学路だろうが口説いてくる。

 やめてほしい。例え好意でも目立つ子に目をつけられるのは本当に嫌なのだ。不動くんは美形で背が高くておしゃべりで成績と運動神経が良くて、派手な子にも地味な子にもオシャレな子にもオタクの子にも同じように接するから、女の子から人気があるのだ。それだけに、元々孤立していた私を口説くのを気にくわないという女子も出てきて、そしてその矛先は、私に向く。

「調子乗んないでくんない?」

 とある日の放課後、女子三人に呼ばれて囲まれて、そんな風に詰られた。不動くんは友達の部活の応援とやらに行っているから確実に助けはこない。

「"霊感"とか痛いんだよ」

「アイツ誰にでもあんなかんじだから勘違いしないで」

「…………………………」

「なんとか言えよ」

「不動くんに言ってください」

 ぱん、と軽く頬を叩かれる。

「生意気」

「……………………………」

 私がつきまとわれているだけなのに。ああ、本当にめんどくさい。この子たちは、ただ苛立った気持ちを私にぶつけたいだけなのだ。


「おはよ三島ぁ」

「…………………………………」

 翌朝、挨拶すら返さず、教室に入って席につく。

「んん~? 無視? 機嫌悪い? なんかあった?」

「関わんないで。鬱陶しいの」

「えー、なに、やっぱなんかあった? 俺にできることなら協力するぜ?」

「だったらもう関わらないで」

 筆箱からカッターを取り出した。ぎちぎちぎちという音とともに、刃が顔を出す。

「ふーん」

「関わらないで。私誰とも付き合う気とか、ないから」

 不動くんは刃を指二本で挟むと、それを捻ってあっさりと刃を折った。

「………………………」

「あんまかわいいことするなよ~。教室だぜ?」

 カッターはそのまま取り上げられて、「まあ今は退散しておくわ」と席に戻っていった。

(……また不登校になるのは嫌だなあ)

 中学ではそれでさんざん親を心配させた。高校はせめて普通に卒業していきたかったのに、さっそく嫌な女子に目をつけられている。

「はあ……」

 "普通"は私にとって、あまりにも遠いもの。これからどうなるか考えるとそれだけで嫌になる。

 いじめられる覚悟はしていたが、予想に反して数日は何もなかった。何かあったことを察した不動くんがいつも以上にべったりしてきたので、向こうは手を出せなかったのだ。せいぜい睨むくらい。でも、それだっていつまでも上手くはいかないだろう。いつか絶対、不動くんの手の届かなくなるときぐらいくる。

 そんな緊張した数日のあと、あの三人の女子がいっせいに休んだ。とりあえず今日は安心して過ごせるとほっとしていると、放課後になってから不動くんに強引に人気のない体育倉庫の中に連れていかれた。

「……なんなの?」

「見せたいものあるんだよ」

 不動くんは、大きい袋を持っている。

「気になってダチに頼んで調べてもらったらさあ三島のこと呼び出したバカがいたらしいじゃん」

 それって今日休んでたあいつらだろ? と。

「…………で、なに」

「もうそんなことないように説得したから安心しろよ!」

「説得って……」

「説得だよ説得ぅ」

 そして不動くんは、袋の中をばらまいた。黒、茶色、金色の、三人分の髪の毛。

「もうしないって誓わせたから」

「……無理に髪を切るのは傷害罪なんだけど」

「違うよぉ。自分で切らせたから」

「……どうやって?」

「秘密♡」

 まあ殴ったりはしてないから大丈夫大丈夫、とあっけらかんと語る。何を言っているんだこの男は。

「俺の好きな子に手ぇ出したんだからそれなりの報いってのを受けてもらわなきゃな。いやあ本当な生首ほしかったけどさすがにそれはな~~いろいろ面倒かな~~って」

「……これで私が喜ぶと思うの」

「いや、これは俺がやりたかっただけだし。まあ三島には、あいつらは俺が押さえつけてるから心配するなよってことと……」

 ニイ、と笑って。

「俺は避けた程度で止まるやつじゃないぞと、分かってもらいたくてな」

「……蛮族」

「蛮族でいいからさあ、デートしようぜデート」

 ニコニコとそう語る男の足下には、大量の髪の毛。

 これは、いじめとどっちがマシなんだろうか。結局、頭が痛い問題なのだ。

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