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正月ハイテンション

『だって私、不動くんのこと大好きだもん』


「つまり俺とお付き合いするってことでいい!? ねえ!?」

 あの年末のテンション底辺鬱寄り状態の時に、そんな夢のような言葉をしっかりと聞いたのだ。脳が処理しきれなくてぼーっとなり、正月になってからようやく事実を咀嚼してハイなテンションで三島に電話を掛けた。

『……"友達として"って言ったでしょ』

 三島はいつもの冷たい感じだ。ああまったく、素直になってくれたらいいのに!

「いいや三島は俺のこと好きだね……感じた……愛を感じた……それで初デートはいつにする? ん? 入籍か? 入籍が先か?」

『………"足切り"』

「…………………………………………………………」

 忌まわしい単語が耳に入ってきた。沸いていた脳が一瞬で冷静になる。

『で、勉強してるの? それで悩んでたんだよね? 浮かれて勉強疎かになって足切りになっても知らないからね』

「あっ、はい、すみません……」

 反論しようがない厳しい言葉に縮こまる。思わず自室のフローリングに正座をした。

『まあ、あんまり思い詰めないでね』

「はい……」

『思い詰めてると、死に場泥棒さんがくるときがあるし』

「……シニバ泥棒?」

 いやなにそれ? カニバの間違い? と思ったら、三島は『お化けだよ』と語る。

『思い詰めて死を考えてるとか、あるいはギャンブルみたいな興奮することで脳がいかれちゃってるとか、単純な過労とか、そんな感じで一つのことしか考えられなくて、ともすれば人生が破滅しかねない状態の生き物のところにくるお化けなの』

「へー、なんで」

『そのほうが簡単に盗めるから。

 例えばだけど、ただの通行人からお財布をスッても気づかれてトラブルになるけど、これから自殺する人のお財布盗んでも死ぬことしか考えてないから気づきにくいでしょ。死に場泥棒さんはそういうところにやってきて、何かを盗むのが得意なの』

「悪いやつじゃーん」

『そう、だから、お財布の中にお金……ある?』

「ええー、ちゃんとあるよぉ………はあ……?」

 年末の前に、ちゃんと入れておいたのだ。三万円。いくらか使ったから今は二万数千円あるはず。

 ……なぜ数千円しかない?

 そして代わりとばかりに、何も文字が書いてない真っ青なカードが入っていた。

『死に場泥棒さんの仕業だね。青いカードは死に場泥棒さんがやった証なの。もしその生き物が立ち直っても"お前がバカなこと考えてる間にやってやったぜ!"って嘲笑うためのカードなの』

「は? 俺の二万は? 待ってそいつ殺すか住所教えて住所!!!!!!!!!!!」

『お化けの住所なんて知らない。まあ死に場泥棒さんは寿命の借りパクとかするからお金で済んだだけマシだよ』

「寿命の借りパクってなんだよ!!!!!!」

『…………じゃあ、メンタルに気をつけて勉強がんばってね』

「あ、説明めんどくさくなったなおい!!!」

 電話はあっさりと切れている。俺の2021年は、よくわからんお化けによりいつの間にか二万円が盗られているという形でのスタートを切った。

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