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宅配
ピンポーン、とチャイムがなる。
『お届け物でーす』
インターフォンの向こうからそんな声がした。はて、なにか注文しただろうか。
「はいはい」
返事をしながらドアを開ける。さて、注文したけど忘れていたものか、実家あたりから何かかたのか……。
『こちらにサインお願いしまーす』
そうしてペンと伝票を差し出す宅配員は、首から上がなかった。しっかりと制服を着て、荷物を持って、立って、首がない。襟の中は墨のような闇が広がっている。
「…………………………………」
『どうされました?』
「く、くびっ……」
『……あー! 失礼しました! お隣の部屋の荷物でした! これ!』
そして首に関する説明は一切なしに、宅配員は俺から向かって左に進んでいき、『お届け物でーす』の声と、応対した住人の声が聞こえる。
ここは角部屋だ。向かって左側には、部屋がない。
静かにドアを閉めて煩悶する。これは、引っ越しが必要な事態なのだろうか……。




