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七不思議(音楽室の径)

 俺が通う高校には七不思議がある。


 夜になると誰もいない音楽室からピアノの音がするのだ。曲を奏でているのではなく、鍵盤を無造作に一つずつ押しているような音だ。

 噂によれば音大を目指していた生徒が、事故で手を怪我してピアノが弾けなくなったことから音楽室で命を絶ち、それ以来その子が自殺した時間帯になると、誰もいないのにピアノが鳴るという。一つずつ鍵盤が押されているのは、怪我でピアノを弾けなくなったからだそうだ。

「七不思議とか信じるのは小学生までだろ」

 俺の真っ当な意見はクソ野郎……暴君……もとい不動日陰に無視された。受験勉強のために学校に友達といっしょに残っていたが、勉強に飽きたらしい不動がその七不思議の一つである音楽室に行こうと言ったのだ。

 不動だけではなく他の友達も気分転換に七不思議探検にのったのだ。夜の学校に一人で教室に残るのは嫌だった俺もついていくことにした。

 音楽室は特別教室棟の四階にある。

「七不思議って他にどこのやつがあったっけ」

「美術室と、体育倉庫と……」

「あー、美術室のほうが教室から近かったな」

 雑談をしながらだらだらと歩いていく。みんな七不思議なんか本気で信じていなくて、ただの気分転換だ。霊感少女の三島の信者である不動はわからないが。

「お、なんか聞こえんじゃん」

「合唱部だろ?」


 ぽぉん


 ピアノの鍵盤を、一つ。

「……………………」


 ぽぉん ぽぉん


 不規則に、でたらめに、一つずつ押したような、音楽ですらないただの音。

 合唱部も吹奏楽部も軽音楽部もいるはずもない、明かりがついていない音楽室から響く音。みんな、静かに足を止めた。

「おら何してんだ行くぞ」

 不動だけは涼しい顔で無遠慮に音楽室を開けて明かりをつける。ピアノの前にはやはり誰もすわっておらず。


 ぽぉん


 誰も触っていないのに勝手に鍵盤が下がり、音が出る。

「ひゃああ~~~~!!!!!」

 なっさけない悲鳴をあげて、俺たちは廊下を走った。


 翌朝。

「音楽室にお化け? いるよ」

「ほぉ~~~らなぁ?」

 霊感少女の見解に不動だけはご満悦だ。俺たちは全員心霊現象にげんなりとしている。

「いやあいい気分転換になった! 今日は美術室行こうぜ!」

「行かねえよバカ!!!!」

 全員で抗議すると不動が薄く笑う。

「は? お前らに選択肢があると思ってんの?」

「はぁ?」

「お前らのこと引きずってくに決まってんだろ? せめて一人はビビリがいねえとつまんねえからなぁ……」

 暴君は生け贄を探している。

 ……放課後までに犠牲者を決めて、差し出さなければいけない。


*****


 不動くんのことはあとで嗜めておこう。……忘れてなければ。

 音楽室に確かに幽霊はいる。死んだ経緯が噂通りかどうかは知らないが、女の子がピアノの前で首をつっている。

 でも、ピアノの鍵盤を動かしているのはその子ではない。首をつっているから動かせないのは当たり前だ。鍵盤を押しているのは天井裏のお化けだ。 

 音楽室の天井裏には、小さいお化けが住んでいる。それは顔がない肉色の肉団子。血管も透けていて、ところどころ毛が生えていて、小さな手足を使って四つん這いで動く。

 それらはときどき天井裏から出てきて、音楽室の首つりの子を伝って降りて、ピアノに着地する。鍵盤の音はそのときのものだ。

 お化けが見えないみんなには、あちらとこちらの境界が曖昧になる夜にだけは音だけ聞こえているらしい。

 肉団子のお化けが学校で何をしているかはわからない。


 七不思議はみんなそうだ。みんな七不思議の端っこだけ見て、本当の七不思議を知らない。

 知っているのは、霊感少女の私だけなのだ。


 

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