有害
私のお父さんとお母さんは、私が読んだり見たりする漫画、アニメ、映画、テレビ番組、ネットの動画に制限をかける。
「あなたのためなのよ」
「悪いものを見ないようにするだけだから」
「悪いものってなに?」
「戦ったり、汚い言葉遣いをするものね」
「そういったものが当たり前のものだと思わないように見せないんだ」
お父さんとお母さんはそう言っていた。だから私は流行ってる漫画もアニメも何も見たことがない。手塚治虫の漫画はOKだけど、周りで読んでいる子はほとんどいない。
「…………………」
だから学校のお友達が話してることがよくわからない。
でも、子供は親の言いつけは絶対に守らなければならない。悪いものは見てはいけないのだ。それが社会のルールだとお父さんとお母さんは言っていた。
「あ」
だから"それ"に気づいたとき、私は貯めていたお年玉やお小遣いをかき集めて家がある東京から、九州のおじいちゃんとおばあちゃんの家に行った。大冒険だった。
「まあまあどうしたの」
「いったい何があったんだ」
連絡もなく突然一人で来た私に、おじいちゃんとおばあちゃんはびっくりしていた。
「お父さんとお母さんはいつも私に悪いものを見ちゃダメって言って、漫画やアニメを見れないの」
「まあ! あの子ったら何にかぶれてるのかしら。そんなことして……あとで怒ってあげるからね」
「それで嫌になってうちにきたのかい?」
「ううん。言いつけを守りにきたの」
「言いつけ?」
「争ったり悪口を言ってるのは見ちゃダメだって言うから」
お父さんとお母さんがそう言っていたのだ。だから私はそれを忠実に守る。
「お父さんとお母さんがよくしてる夫婦喧嘩も見ちゃダメでしょ?」
争ったり悪口を言っているのは、見てはダメなのだ。……ならば家には、いられない。夫婦仲良しのおじいちゃんとおばあちゃんの家で暮らそう。
「よろしくね、おじいちゃん、おばあちゃん」
おばあちゃんは、はぁ、とため息をついて「ちょっと叱ってくるわ」と電話を持って廊下に出ていった。




