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食べ物

 子供の頃、庭に大きな蛇がいるのを見つけた。


 近づいてみると蛇ではなくて、太くて透明で黒い粒……に見える眼球の集合体があって、まるで大きなカエルの卵のような何かだった。

「千花、どうしたの?」

「……なんでもない」

 怖いもの、気持ち悪いものが大嫌いなお母さんが何も言わないということは、これは珍しい蛇ではなく、お化けなのだと分かった。

 まだ子供らしいお化けは親とはぐれていたようで、私の家の庭の木の洞をねぐらにしていた。

 私はお化けに食べ物をあげた。

 夕飯の残りを、おやつを、冷蔵庫の隅で忘れられている野菜の欠片を、虫を、お母さんが庭で育てている菜園の野菜を、カタツムリを、きのこを、パン屋で10円で買えたパンの耳を。

 子供にできる範囲で、お腹いっぱい食べさせたのだ。

 やがて親がやってきて、子供のお化けは去っていった。

 滞在している間に世話をした礼を言って。


*****


「餌付けはいかんぞ」

 不動くんは珍しくむくれている。

 あのお化けがあっさりと引き下がったのを不思議がっていたので理由を話したのだ。あのお化けは小さい頃にエサをやっていた縁があって、私には比較的優しい。

 だから「私のお友達だから」という、向こうにはどうでもいい理由で、美味しいエサを前にして引き下がってくれたのだ。あのお化けは今はそれなりに強いお化けだからあのお化けが言えば他も一応従ってくれた。それでも今後あのお化けと交流のない他のお化けに狙われたときのために名前は刻む羽目にはなったが。

「お化けなんてほっときゃあいいのに」

「なんで?」

「だってあんな化け物だぜ。自然に任せて飢えさせときゃよかったんだ」

 どうやら狙われたことに相当ご立腹のようだ。

「放置してたらどうなると思う?」

「どうって……」

「私や、私のお父さんとお母さんが食べられるだけだよ」

「………………」

「だって"見えない"もん。寝てるうちに首を絞めるなり太い動脈があるところに噛みつけばいいんだよ。そしてあとでゆっくり食べたらいいの。

 霊感がないとそれを感じれなくて、何も分からないまま死んじゃうの。"感じない"だけで体にちゃんとダメージはあるからね」

「………………」

「だから……食べさせたの。お腹いっぱいなら、私や私の家族を食べようとしないでしょ?」

 お化けにとって人間はいい餌だ。

 見えないから逃げなくて、そこそこ大きさがあって、いっぱいいて。骨が多いのは、好みがわかれる。

 お化けはいつだって、お腹が空いたときにいのちを食らう。それは人間と同じように、植物かもしれないし鳥かもしれないし魚かもしれないし、牛や豚かもしれない。

 ただ、お化けは人間も同じように食らう。親だって、友達だって、みんなみんな。

「……あー、悪い」

「別に」


 ずりずりずりずり……


 遠くで遠くで、なにかが這いずる音がする。

 しばし続いたそれはぴたりと止まった。今は……なにを狙っているんだろうか。

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