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猫の墓場

 猫は死を悟ると住みかを離れて"墓場"を訪れるという。

 墓場といっても人間の墓場のことではない。墓石も卒塔婆も手入れされた区画もない、ただの街の隙間のような、暗い路地に彼らは行くのだ。きっと彼らなりになにかしら集まる理由があるのだろう。そこでは、たまに外傷がない猫の遺体がある。

「アンコもいつかあそこに行くの?」

 できれば看取りたいけど、気になったのでそう飼い猫に聞いてみたらしっぽで叩かれて、前足でべしべしと更に叩かれてしまった。そのあとあからさまに不機嫌になって部屋の隅の猫用ベッドに収まってこっちを睨み付けている。

「ごめんねアンコ。失礼だったね」

「………………………」

 アンコはずっとこちらを睨んでいる。

『ははっ、あんなこと言っちゃあかわいそうじゃないか』

 部屋の中に、いつの間にか小さいピエロの扮装をした妖精さんがいた。

『あそこに行くのはそこの猫ちゃんみたいなやつじゃないよ。もっとかわいそうなやつなのさ。オレは情報通だからね。いろいろと知っているのさ』

「あそこはなんなの?」

『あそこはさみしいやつらが集まる場所なのさ。誰にも看取られないって自分で分かりきってるやつらが、あそこに行くのさ。そうしたら、お人好しの死神や虹色の橋が魂をあの世へみちびいてくれるのさ。猫に限った話じゃない。犬も猫も虫も人も妖精もさみしいやつらはあそこに導かれるのさ』

「そうなんだ」

『くくっ、そこの猫ちゃんはあんなところで終わらずにあったかいお家で幸せな最期を遂げたいのさ。お嬢さんに看取られてな』

 アンコがシャアと威嚇の声を上げるとピエロは怖い怖いと笑いながら外へと出ていった。

「ごめんねアンコ」

「…………」

「ずっといっしょだよ」

 ふん、と小さな鼻息が鳴った。


 墓場はいろいろな場所にある。私の家の近くにもあるから、ときどきそこを見回って、猫の遺体があったら保健所に通報するのだ。

「あ……」

 暗がりのなかに、ぴくりともしないしっぽが一本、二本。今日も見つけた。数を確認しようと薄暗い路地の中を行く。

「…………………」

 一匹、二匹、三匹、四匹。

 一人。

「…………………」

 数日前、一人暮らしをしていた認知症のおばあさんが行方不明になったと知らせられていた。ヘルパーさんが連絡を取ろうとしたのに、電話にもでないし家にもいなかったようだ。

 寒くなってきた最近には薄着すぎる格好で道に横たわり、その周りを囲むように猫がいる。みんなピクリとも動かずに、いのちの気配は微塵もない。まるで置物のようだった。

 いつものように保健所に連絡して、警察にも連絡して、到着を待っている間、遺体を眺める。

 ここは、さみしい生き物が最期に寄る場所。

 ただ、寒い日にたった一人で死を迎えたわりにはその顔は穏やかだった。

 そしてそれは周りの猫も同じ。まるで飼い猫といっしょに昼寝をしているよう。

(最期の最期だけはさみしくなかったのかな)

 パトカーのサイレンの音が、遠くから響いてきた。

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