アダルト
三島が家に遊びにきた。
「この前貸してくれた漫画の続き、ある?」
「おお、本棚じゃなくてクローゼットの中のオレンジ色の段ボールに入ってる」
部屋に招き入れた三島にそう伝えてから、ジュースをとりに下に降りた。コップにジュースを注いでお盆で持っていく、そんな少しの間……なんだか、嫌な予感がした。
些細だが、致命的な失敗をしてしまったかのような。
クローゼットの、段ボールは。
「三島ァ! ちょっと待って欲しいんだけどぉ!」
「もう遅いよ」
三島は当然段ボールを既に開いており、中のものを改めている。
「巨乳もの好きなんだ? ふーん……」
「ああああああああああああ!!!!!!!!!」
この前掃除したときいろいろ入れ替えたじゃん! 俺のバカ!
オレンジ色の段ボール! それはAVを詰めた箱! しかも特殊性癖じゃなくて普通のやつ! 三島相手だと逆にそっちが見られたくない!
だって巨乳ものしかねえから……俺は巨乳好きだから……。
「私、こんな胸してないけど」
「愛してる相手とAVに求めるものは違うんだよぉ」
「暗に貧乳って言ってる」
「そおぉぉぉおいう誘導尋問はいけないと思うなあ俺ェ」
三島は段ボールを避けると更にクローゼットの奥を探りだした。こら! やめなさい!
「パンドラの箱を開くのはやめたほうがいいと思うな俺!」
「なんだか腹が立ったから慌てる顔が見たくて」
「俺、女の子のそういう理不尽で残酷なところは好きだけど、自分には向けられたくないんだよなぁ!」
「複雑だね」
そして無慈悲に容赦なく、自分でも何をいれているかわからない段ボールを開けられた。
「巨乳しかない。ふーん……へえ……愛されキュートな笑顔の女子大生Fカップ……」
AVのタイトルの詠唱はやめよう。俺に効く。しかもよりにもよって無表情スレンダーの三島と正反対なやつじゃねえか。
いっそグロ映像満載の特殊性癖ものだったらよかったのに! いっそそっちだったらよかったのに!
「……ん?」
「なんだよ。死刑にするなら早く処してくれ」
「何これ?」
手に持っていたのは、文字すら印刷されていない真っ黒のパッケージ。中に入ってるDVDなのかBDなのかすらよくわからん円盤も、真っ黒で何も書かれてない。
……何これ?
「そんなん知らねえぞ」
「ふうん……見てみようよ」
「えー……」
AV入ってる箱に入ってたブツなんて見たくない。
「ね? いっしょに見よ?」
小首を傾げるな。わかってやってるだろ。
「三島さぁあ……かわいいってわかってやってるんだろ? ん?」
「そうだよ」
「自分がかわいければ俺が言うこと聞くだろみたいな見た目に自信ありすぎな考えだろ?」
「でもそういう女の子好きでしょ」
「うん……………………」
傲慢なまでに容姿に自信ある子っていいよね。もちろん本当に美人、かわいいのが前提なんだが。
「っていうか自分だってやってるでしょ」
「うん」
美形はいい。普通は「ごめん」じゃ済まないことをしでかしたときにも、反省したように見える面をして「ごめん……」って言ったら解決するから。顔面を生かして闇に葬ったやらかしはちょっと数えきれん。
「じゃあ見ようね」
再生するとただどこかのビルの一室が映っていた。ただそれだけ。特になにも画面に入ることなく、あんまりにもなにも起きないので早送りしたら今度はホテルっぽい部屋が映った。そしてなにも起きず今度は別の場所が……の繰り返し。最後までそれだった。
「なにこれ」
「……ねえ、どんな風に見えた?」
「風景だけ映ってるようにしか見えねえけど」
「ふうん……」
お、幽霊か? お化けか?
「なんかいたの?」
「お化けなんだろうなってのがわちゃわちゃしてるように見えた」
マジかよ見たかった。
「あとさ」
「うん」
「さっきから『返せ』ってうるさいんだよね」
「えっ」
……俺には何も聞こえない。
「どこに返せばいいの……そう」
よくわからん何かと会話したあと、三島はDVDを取り出してパッケージにおさめた。
「お化けが勝手にクローゼットを"これ"の隠し場所に使ってたんだって。ごめんなさいって言ってるよ。返していいよね?」
「人ん家に隠すなよ……」
返せ返せと言うと三島はパッケージを外に投げ捨てた。雑ぅ。
……しかし、結局どんな内容だったんだろうか。あれ。
*****
多分アダルトな類……だと思う。
なんせ映っているお化けが軟体の、人体から程遠い構造をしていたから確信を持てないけど、昔動画で見たナメクジの交尾に似てたからきっと多分そうなんだと思う。お化けもなんか慌てた声をしていたし。
……別に持ってるのはいいが、二人とも隠し場所くらいもう少し考えたら、とちょっと呆れたのだった。




