意味のない階段
途切れている階段。開いてもどこにも続かないドア。あまりにも短いトンネル。そういった一見意味がなさそうな建築物を、トマソンという。
うちの学校にもトマソンはある。最上階である四階から天井へと伸びてぶつかっている階段、通称謎階段だ。この学校は作られた当初から屋上には出られないようになっていたらしいので、本当になんで作ったのかわからない代物だ。
新入生が入ったばかりの頃は少しだけ撮影スポットになって、そのあとはただの少し奇妙な日常の背景になる、ただそれだけの存在。
「あの謎階段壊してみようぜ」
「いや無理だろ……」
「いや、今ならできそうなんだよ」
この校舎は古い上に震災を食らったこともあって、ところどころダメになっている箇所がある。
「元々ヒビみたいなの入ってただろ? んで、この前けっこうでかい地震があったせいか、謎階段の下のほうの段の端がとれそうになってるんだよ」
それをとってみよう、という話だった。理由はなんとなく、思い付いたから。要は暇潰しだった。
「弁償とかになっても知らねえぞー」
「見られなきゃいいんだよ」
暇をもて余した男子数名で謎階段へ向かう。放課後、校舎の端にある謎階段の周囲には誰もおらずおおよそ人の気配を感じない。遠くで吹奏楽部が練習している音だけが、他人の存在の証明であった。
「うわ、ほんとに壊れそうじゃん」
「道具とかいらねえな」
「だろ?」
いつかの悲劇の傷であるヒビにより剥離しかけているそれは、少し触れただけでもぐらぐらしている。
「じゃんけんで順番決めて一人ずつ蹴っていって、最初に壊せたやつに他の奴らがジュースおごってやるってことで」
「順番後のほうが有利じゃん」
「一撃で壊せりゃいいんだよ」
それは成長期で少しばかり力と時間をもて余した少年たちの悪い遊び。それは無意味で使い道がなくてなくなっても誰も困らず、悲鳴もあげないそれをいたぶっていく。
そして、何撃目かでそれは壊れた。
「いっ……!!!」
天井へと伸びる謎階段。それを上ってもどこにもいけない無意味な存在。
壊れたそれの中から露出したものも、無意味で無価値で使い様がなくて、どこまでもトマソンだった。
「うわあっ!!!!!」
中にみっちりと詰まった切った爪と、玉結びになった髪の毛の束が、どろりと姿を現した。




