櫛
「髪長いよね」
放課後の教室で、三島が突然そう言った。
「おお、まあ三島と同じくらいだからな」
俺の黒髪は背中まである。それをうなじで一つにまとめてるのだ。なんで男なのにそんな髪型なのかって? それが似合うからだ。短髪にしたこともあるがやっぱり俺は黒髪長髪が一番のセクシー美しい。
「櫛買ったんだよね。すいてあげようか」
「え、いいの?」
「うん」
髪を下ろして椅子に座る。三島は後ろに回り、竹櫛ですっ、すっ、と髪をすく。
あっ、なんかこれラブラブカップルみたい。好き……。
「教室でいちゃついてんじゃねえぞ」
モテない男友達の吠え声が聞こえてきたが笑顔で中指を立てておく。悔しかったら彼女作りやがれバーカバーカ。……俺にもいねえけど。でもこれ実質彼女だよな! ヨシ!
「ねえ、昨日、***通りとか通った?」
「? 通ったけど」
「私も行ったんだけど、ちらっと不動くんみたいな人がいたのが見えたから」
「え~~話しかけてくれよぉ!」
「ほんとに遠くにちらっと見ただけだもん。何してたの」
「そりゃあこの前三島から貰ったアロハにふさわしきアクセを探してたわけだ」
「ふぅん。いいのあった?」
「あったあった。終わったら画像見てくれよ~」
*****
不動くんの頭に卵がついていた。
これは寄生するお化けの卵だ。一センチくらいの大きめの卵は透けていて、中にいる子供もうっすらと見えている。
***通りにたまに現れるそのお化けがたまたま産卵の時期で産み付けられたのだろう。髪に貼り付いたこれを放っておけば髪や頭皮から栄養を摂取して成長して、そのうち産まれれ離れて行く。そして寄生された方は栄養を奪われ、病院に行っても原因不明と言われる謎の倦怠感と疲労感に悩まされ、産まれる前日に全ての栄養をとられ、それが原因で突然死をするのだ。
頭を洗う生活習慣が根付いている人間の頭に産み付けられた卵は普通に生活しているうちにとれることも多いが、念のためだ。
すーっと櫛をすいて卵を落として、床に落ちたそれをさりげなく足で潰す。これの繰り返し。
「不動くん楽しそうだね」
「そりゃそうだろ~」
「そう」
窓ガラスの反射で見える不動くんの顔は嬉しそうだ。だから真実なんて……黙っておいた方が、いいだろう。




