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利子をつけて金平糖を貸すの

 とある妖精さんからお話を聞いた。


『私の種族はね、金平糖を食べて生きて、金平糖と交換して欲しいものを手にいれるの』

「重さで価値が変わるとか?」

『ええ。だからお店には立派な秤があるわ。偽物を作られてもわかるように、魔法がかけられているのよ』

 社会の教科書で読んだ、金貨や銀貨を物と交換して生活していたときのようだ。こちらの世界では偽硬貨との戦いが激しかったようだが、妖精さんの世界では無縁のことらしい。

『だからみんな働いて必死に金平糖を集めるの。食事にも、買い物にも必要だからね』

「なるほど」

『それでね、私、楽に金平糖を集める手段を思い付いたの』

「楽に?」

『利子をつけて金平糖を貸すの』

「………………」

 急にきな臭くなってきた。

「……10日で1割とか?」

『昔はそんなのもあったみたいだけど、それは高すぎるから今は禁止されているわ。今はもっと落ち着いた利率よ。

 借りる額が大きければ利率も低くなるから幅が広くなるけど……今は少ない額を借りるなら年利で7~18%、大金なら3~5%かしら』

「今から参入して大丈夫なの?」

『ええ、たしかにそうね。金平糖貸しだってもう経営が安定してて有名な大手がいるし、小さなところは少ない顧客でなんとかするか、法律の穴をついたグレーゾーンで生きていていつ逮捕されるかわからない状態ね。だから個人で新規参入なんて普通はできないわ。

 だから、新しい手法を思い付いたの』

「新しい方法?」

『借りた重さに関わらず月々の返済金平糖の重さを定数にするの!』

「………………」

 なんか聞いたことがある。

『金平糖を100万グラム……つまり1000キロ借りたとして、何年で返済するかにもよるけれど、月に数万グラムは返済しなきゃいけないわ。

 お金を借りる方はそもそもお金がないからそれが負担に感じてしまって追い詰められてしまうの』

「……………」

『でもね、私が貸した場合は10万借りようが100万借りようが、月に3000グラム返済してくれればいいの!

 でも慈善事業ではなくてちゃんと私も儲かるの。だって』

「月にそれだけしか返さないってことはいつまでも元金……元金平糖が減らないから、返しきるに普通のところで借りたときよりも何倍も時間がかかる。

 その分利息も払い続ける期間が長くなるから、例えちゃんと返し終えたときには、利息も合わせると総額では借りたときの何倍もの金平糖を支払うことになる。そうでしょう?」

『! すばらしいわ! こんなに早くわかって貰えるなんて!』

「人間の世界にもそういうのはあるよ。リボ払いって言われてるけど」

『まあまあまあ、ぜひお話を聞きたいわ! 再度はうまく回っているの? 警察は動いていたりする? 規制とかされたりしたかしら。そう、あとは……』

「とりあえず……制度は存続してるよ。規制とか警察は、ちょっと私にはわからない。

 でも、貧乏な人を食い物にしてるって、すごく批判はされてるよ。その覚悟はある?」

『あらあら、うふふ』

 そんなもの、ちっとも怖くない。そんな笑みだった。

『ええ、ええ。きっと批判はされるでしょう。身辺警護の魔法には力を入れたほうが良いかしら?

 でも、でもね。絶対成功するもの。絶対儲けられるんだもの。だからやるわ』

「絶対?」

『ええ。絶対。これを見て』

 妖精さんは懐から袋を取り出して、輝く金平糖をいくつか手に取った。それに魔法をかけて、今いる場所から遠くへ……薄汚い妖精さんたちが集まってたエリアへと飛ばした。それは地面にあった石の上に落下するとバラバラになり欠片となるが、そこらへんで酔って寝転んで、あるいは地べたに座って賭けをしていた妖精さんたちがいっせいにかけよって拾い始めた。

 そしてそれを、ポケットにしまう者もいれば、躊躇なく口にいれていく者もいた。

『例え汚れたものだろうが、目の前に実物の金平糖が欲しいっていう方々はたくさんいるの』

「…………………」

『利率が高い? 総額だと元金よりはるかに高くなる? ええ、わかっていますとも。貸す側の私だけではなく、借りる側になる彼らだってわかっています。

 それでもそれでも……目の前の金平糖が欲しくて、月に返さなきゃいけない金平糖は少ないほうがいいの。

 だって……普通のとこらから借りて、返済で追い詰められて死ぬなんて馬鹿馬鹿しいでしょう?

 私のやり方なら、そんなことにはそうそうならないわ。だって例え総額が大きくても、月にほんのちょっとだけ返し続ければ怒りもしないし、優良な方にはもっと貸してあげるもの。

 ええ、みんなは返済に苦しまず、私も金平糖がたくさん手に入るのが、このやり方なの』

「…………………」

『もちろん総額が莫大な額になり、批判も来るでしょう。でもそんなことを言うのは、しょせん食うに困らない方々よ?』

「…………………」

『地獄と蔑む方もいるでしょう。悪魔の誘いと警告する方もいらっしゃるでしょう。

 でもね、真に貧困な者には、たとえ返済額が膨らんだって、自分の目の前に生きていくだけの自分の金平糖がある、それが救いの福音でもあるのよ』

「…………………」


 ひゅうひゅうと強い風が吹く。

 私たちがいる丘の上の穏やかな公園も、その裾野に広がる貧困街にも、そして、それを見下ろすように大きな木の上に建てられた、富裕層の家にも、風は吹く。

 風は遮るもののない貧困街には容赦なく吹き付け、地べたに置いておいたものを転がしていった。持ち主は、慌てて何人かがそれを追っている。

 富裕層は家の窓を開けて、葉っぱに遮られてそよ風となったそれを楽しんでいる。

 空を見上げる。雲はまだ遠く、空は青く、だがその爽やかな空の端は、悪しき者に侵食されたように黒ずんでいる。

 もうすぐ嵐がやってくる、そんな空模様だった。

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