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夜の闇に潜むもの

 ピピピピピピピピピピピピピピ


 甲高い音に、あたしは夜中にたたき起こされた。それは毎朝聞くハメになる、アナログの目覚まし時計のアラーム音。けど、近くにあったスマートフォンの表示は夜中の二時を示している。

(しまった……昨日深夜番組見るためにこの時間にセットしてたんだった)

 そして深夜番組を見たあとは、どうせ日曜だからいくら遅く起きても大丈夫と朝のアラームの設定をせずそのままにして、そしてそれを忘れて月曜未明の今、こうやって叩き起こされたのだ。完全に自分のミスだ。

「あーもー、どこ!」

 音はするけど夜の闇の中では時計の姿は見えない。夜光塗料なんてものはない安い時計だ。けれど、寝ぼけている上にイライラしているあたしは、時計がありそうな場所をバンバンと叩く。電気を点けて探すのはなんだか負けた気がするからやらない。

 バン! バン! バン! と不必要なくらい強い力で布団の周りを這いながら叩いて、数回目でようやく時計に当たって音は止まった。

「あー……」

 手が痛い。当たり前だが。あたしは改めて朝の時間にアラームをセットすると、もぞもぞと布団の中に戻っていった。

 

 翌朝学校に行くと、背後から視線を感じた。同じクラスの三島さんだ。かわいいけれど、言動が怪しい『霊感少女』。

 そんな三島さんが、あたしのことを睨んでいる。 

「えっと、何か用?」

「……ううん。何でもないよ」

 言って、三島さんはスッと自分の席に戻っていった。

 なんだったんだろう……まさか、怖いお化けが取り憑いてるとかだったりして。


*****


 朝から嫌なものを見た。私は霊感があるから、そういうのが視えてしまう。

 同じクラスの女の子の手に、叩き潰された妖精さんの死骸がべっとりと張り付いていた。

 別に殺そうとしたんじゃないと思う。あの子に霊感があるようには見えない。手で床なり壁なりを叩いたときに、たまたま妖精さんを叩き殺してしまったのだ。けれど霊感がないから手についた妖精さんの血や内臓を知覚できずに、そのままになっているのだ。

 みんなそうだ。霊感がないから妖精さんのことを知覚できない。出来ないから雨上がりの蛙のように車で轢いてしまったり、公園の蟻のように踏み潰しても何も感じることはない。

 分かるのは、私のような霊感がある子だけだ。車に轢かれて半分が肉片になってしまった妖精さんの遺体が道路にあることも、歩道には自転車に轢かれて首と体が真っ二つになってしまった妖精さんがいることも。そしてそれらをご飯として啄むお化けたちがいることも。

 私には、全部視える。

 みんなには、視えない。だから私はこの気持ちを誰かと共有して愚痴を言ったり慰め合ったりすることは、できない。

「おはよーっす三島ぁ。なんか顔色悪い?」

「おはよう。……別になんでもないよ」

 不動くんに挨拶を返しながら、何年経っても慣れることはない暗澹とした現実に、思わずため息をつきたくなった。

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