冷蔵庫
友人が倒れた。しばらく入院しなければならないらしい。
「頼む……着替えとか、暇潰しになるゲームとか、いろいろ家から持ってきてくれ……」
入院先のベッドから起き上がれない友人に頼まれてアパートへとやってきた。
「おじゃましまーすよっと」
一人暮らしなので当然返事はない。鍵を指で回しながら部屋に入る。相変わらずきれいに掃除されている部屋で、友人に指示されていたまのもすぐ見つかった。
「さて帰……ん……」
冷蔵庫。
冷蔵庫が視界に入った。友人のボロアパートは玄関とキッチンが直結してるから帰るときな嫌でも目に入る。
『ああ……部屋に入るときこれだけは約束してくれ』
『冷蔵庫の中は、絶対に見るなよ』
ここに来る前、友人はそう言っていた。
「だがそれを言われると見たくなるのが人情よ」
恨むなら人選が悪かったことを恨むといい。なあにちょっと見るだけだ。別に何も盗みはしない。もしかして、部屋に反してぐちゃぐちゃだったりするんだろうか……。
「……………………っ!」
そんな考えは一瞬で吹き飛んだ。
人間の手が、肘から下の人間の腕が、入っていたのだ。その爪に塗られた赤いマニキュアは少し剥がれていて、それがまた現実感を醸し出していて頭がくらくらする。
上段も、中段も、下段も、冷凍庫も、そういった"部位"の塊でいっぱい。
「……………………………っ!?」
けど、それらは全てがどこかおかしかった。上段にあった女の手は、指が六本あって、手の甲から足の親指のような太くて短い指が生えていた。
中段にあった子供の腕は、肘から手首までぞろりと濁った目玉が生えていた。下段にあった男のものらしき太い足には、ところどころ鱗が生えていた。
そして、冷凍庫には、たくさんの生首があったが、全て大きさが人間の三分の一くらいの大きさだった。
冷蔵庫のドアを閉める。
わけがわからなかった。まだ普通の人間の死体が入っていた方が理解できた。
いつも明るい友人。優しい友人。気前のいい友人。
金払いは良く、けれどけっして何で稼いでいるかは教えてくれない友人。
友人は"何"だ?
窓の外でパラパラと雨が降ってくる中、俺は身じろぎすることもできず、ただただ立ち尽くしていた。




