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罠猟

 とっても素敵なお花のアーチを見つけた。


*****


『さあ、妖精のパイはいかが?』

 誘い込まれた人間にパイを振る舞う。妖精には無害だが、人間には有害である成分を仕込んだそれを食べた人間は死んだ。

『解体だ!』

『解体の時間だ!』

 人間はこことは少し違う世界に住んでいるので、滅多に捕まる生き物ではない。だから一人でも捕まって解体して保存したら、冬ごもりで食糧に悩むことはないだろう。肉は確保したから、あとは冬までのんびり農業と採取に専念できるからだ。

『血抜きだ!』

『薬になる! いっぱいくれ!』

『うちにもだ!』

『皮が欲しいやつはいるか!』

『俺だ! きれいになめしてやろう!』

『うちにもちょうだい! 息子が立派な皮職人になりたいって言っているの! 練習させなきゃ!』

『歯を! 歯をおくれ! もう斧が古くなってきたんだ!』

『髪をちょうだい! 黒いドレスを作りたいの!』

 自らの糧となってくれる魂へ捧ぐ鎮魂歌を歌いながら、のどかに作業は進んでいく。時間はかかったがバラバラとなり、一部の肉は夕飯へ、ほとんどの肉は地下の乾燥室へと運ばれ、残りの皮や歯などの肉以外の部位はそれを加工する職人のもとへと渡った。

『今年の冬はご飯を我慢しなくていいぞ』

『ほんと!?』

『ええ。これだけお肉があるんだもの』

『でもそうしたらパパは冬までなんのお仕事をするの?』

『人間がとれた場合の狩人は農業や家事を手伝ったり、山で果実や山菜を採ってくるのさ。ま、腕が鈍るといけないから獣もとってくるがね。人間の肉ばっかりも飽きるだろ?』

『それでも時間の余裕ができるわ。パパが手伝ってくれるからママも楽になるし、今年はいっぱい遊んであげるわよ』

『わーい!』

 そうして冬ごもりの食糧の心配がなくなり、村は記念に宴を開いた。メインはもちろん肉料理。大丈夫、あれだけとれたのだから、少しくらい今食べたって大丈夫。


*****


 村は静かだ。夜の灯りの松明だけが微風に揺らされながら村を照らしている。

 宴の料理は齧りかけ。みんな倒れ伏して一人も起きない。

『…………………………………………………………………………』

 人間の世界とここを繋ぐ花のアーチを、誰かがくぐる。それは、形は人間の女のようなものではあったが、顔は目鼻口はなく代わりに穴だらけであり、そこからは何かの突起が頭を出していた。

 "女"は持っていた袋に小さい妖精たちを全て詰め込むと、また花のアーチをくぐっていった。


『あちゃあ……』

 東の村の村人が集会に来ないと思ってみんなで様子を見に来てみれば、村の中心の広場は宴の途中らしき様相であった。しかし椅子は倒れて料理は一部地面落ち、混乱の形跡がある。そして誰一人村のなかにおらず、地面には微かな血の痕。

『こりゃあやられたな。全滅だ』

『血が少ない。吐瀉物もある。武器で襲われたのではなく、毒か?』

『しかし食べかけなのは人間の肉だが、人間に毒はないだろ』

『毒を仕込んだ人間を送り込まれたのだろう。罠猟だ。こちらの世界のことをよく知るあちらの世界の化け物がやったんだろう』

『おお、恐ろしい……』

『人間だからと飛び付くのは危ないぞ。我らが人間を罠にはめて食事にするように、誰かが我らを罠にはめて食事にするときもある……』

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