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「ねえ……あそこで猫、死んでる?」


 "霊感少女"の三島はときどき俺に確認をとる。

 指さした先にいる街路樹の根本、草が繁っていて分かりにくいが、野良猫が横になってピクリともしてなった。よくよく見ると口からは血が出ている。体の曲がり方がおかしい気がするから、原因は交通事故だろうか。

「死んでるな」

「そう。じゃあ保健所に連絡するね」

 番号を検索して電話を終えたら「じゃあ行こうか」と何事もなかったかのように無感動に携帯を鞄にしまう。

「死体だと、見た目だけ普通の人間のお化けと見分けがつかないときがあるんだよね。変な雰囲気とか発してたら別だけど……多分人の死体があってもお化けだと思ってスルーしちゃうと思う」

「そんときゃ俺に聞けばいい」

 なんせ俺には、霊感がないのだから。

「うん」

 頼りにされてるぅ!と一人でテンションあげていると、光があまりない瞳でこちらを見つめてきている。

「頼りにされるの、嬉しい?」

「おう!」

「じゃあ、あのお家、どんな風に見える?」

 郊外にある一軒家。一応住宅街なのにその家の周りだけ何も建っていない。まるでそれを避けるかのように人もおらず、子供の遊ぶ声はずっと遠くから聞こえてくる。

 その外壁は黒く、そして。

「壁にな、『死ぬ』って白スプレーでいっぱい書いてる」

「……………」

「あと目玉かな? それっぽい絵もいっぱい描いてる。一階の壁も二階の壁もそればっか」

「…………そう」

 家主は現代アートの芸術家、だったらしい。実際、庭にはそれらしきガラクタなのか芸術なのかよくわからないものが転がっている。いつごろからか精神の病を発症して、悪化して、更にまた別の精神の病を発症して……を繰り返しているうちにこうなってしまったらしい、と昔井戸端会議で仕入れた話を母親が言っていた。

 今現在、家主は精神病院に入院してるとか、実家に戻されたとか、いやまだ住んでいるとかいろんな噂が飛び交って真実はどうなのかわからない。

「ふうん……この変な家、お化けの家っぽいのにお化けがいる雰囲気しないから変だと思ってた。見た目がおかしいだけでただの家なんだ」

「安心しろ。俺の目にも変な家としか見えねえ。

 今俺とお前の視界はおそろいだぞ?」

 からかうように笑うと「ふうん」と小さく呟く。

「……まあ、八割同じってところかな。多分」

「おいおい、二割はなんだよ」

「妖精さんがあの家に探検に入ろうとしてるよ。空には雲の切れ目から首吊りのロープが垂れてるし、郵便ポストの中には下品な歌を歌ってる人がいるよ」

「下品ってどんな」

「女に言わせないでよ」

 久々に足を踏まれた。どんな歌だ。

「すんませんでした」

「……行こう」

 さっさと歩き始める三島を追った。

 ふと振り返る。異常者の家は相変わらず真っ黒で、誰かが探検している様子はないし、雲の切れ目には何も下がっていないし、郵便ポストは当然静かだ。それが当たり前で、よからぬ物が視える三島のほうが異端だ。

 霊感を持たない限り、誰も三島に心の底から共感することはできない。俺だって話を素直に聞くだけで真の理解や共感をできているわけじゃない。

(俺にもお化けが視えたらいいのに)

 そしたらきっと、三島は自分から離れられなくなるのだ。世界で唯一本当に理解と共感を得られる人から。

「……なにニマニマしてるの」

「ん~? 別に~?」

 そんな幸せな空想を誤魔化すために、笑顔に更に作り笑顔を被せて、曖昧な返事をした。



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