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窓ガラス

「……なんでこうなっちゃうんだろうな」 


 数日前に更新したばかりの車の免許証を見ながら友人は呟いた。新しい免許の写真が気に入らないようだ。

「免許の写真なんて誰のだってなんか気にくわない出来だろ。芸能人ならともかくさ」

「おかしい……同じ物体なはずなのに……」

 ふぅ、とため息をつきながら走る地下鉄の窓ガラスを眺めた。

「地下鉄の窓に映る俺と、免許の写真の俺、別人なんじゃねえの。あと洗面所の鏡の俺も」

「はいはい」

 友人は陽気でいいやつだがナルシストの気があってときどき呆れることがある。容姿は中の上といったぐらいで、良い方ではあるがそこまでうっとりと眺めるほどなのだろうか疑問符が浮かび上がる。

「はぁ~~まあしょうがないか。次の更新のときに再チャレンジだ」

「免許の写真は身分を証明するためのもので、プリクラじゃないんだよ」

 いつもやっているような軽い会話。そして友人の家がある駅に着いて、友人だけが降りる。自分の最寄り駅は次だ。

(そんなに自分の顔が気になるか……?)

 地下鉄の窓ガラスに自分の顔が映る。いつも通りの、やや前髪が長くて、垂れ目で、少し自信がなさげな顔。

 自分の顔なんてたいして意識したことなんてなかった。免許の写真と比べるとそんなに違うものなのかと、財布から自分の免許証を取り出そうとする。

 ────ふふっ

 そう、自分に似た声が聞こえた気がした。思わず見回すと、窓ガラスに映った自分と目があった。

 前髪がきちんと揃えられていて、こちらに微笑んでいる自分と。

「えっ……」

 カラン、と床に免許証が落ちた。慌てて拾い窓ガラスを見ると、いつも通りの気弱そうな自分が怪訝そうな顔をしている。

「………………………」

 車内アナウンスが響き、周囲の人が動く。いつのまにか最寄り駅に着いていたようだ。慌てて人の流れに乗って電車から降りた。

「……………………」

 最後に、少し振り返る。人々の隙間から見える地下鉄の窓ガラスに映る自分は、人差し指を唇に当てているような……そんな風に、見えたのだった。



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