ガチャガチャ
ガチャガチャ
ガチャガチャ
真夜中に、明かりも消えてみんな寝静まっているアパートのドアノブを、一つ一つ回していく。
ガチャガチャ
ガチャガチャ
どれもこれも鍵がかかっている。この時代、当然の行動だ。無心になって、ただひたすら鍵のかかっていないドアを探す。
カチャ
一つのドアが開いた。
自分にはピッキングの技能なんてない。おおざっぱで、短気で、がまんがきかない。
だから、こうやって強盗をするときは、総当たりで鍵のかかっていない部屋に入ろうと決めていたのだ。暗い部屋にナイフを持って静かに入り込む。通帳や財布、へそくりなんかを探す間、家主が寝ているならよし。起きたら殺す。それだけ。
何か嫌な臭いがした気がした。鼻炎で年中鼻が詰まっているためよくわからない。頭に疑問符を浮かべているときに踏んでしまった、ぬるりとした足元の何かのせいで、転んでしまう。ああちくしょう、汚部屋かよ、と思いきって手探りで電気を点けた。
そこにあったのは、血まみれの女の死体。薄着の女が、苦悶の表情で床の上に倒れている。胸から流された血が、自分の足を汚していた。
振り返る。そこにいたのは汚ならしい身なりの男。バットを振りかぶった男。
その男とこの女がどんな関係なのか、そもそも本来関係ともいえる何かがあるような間柄なのか、そんなこと初めて部屋に押し入った自分が分かるわけない。
ただ分かるのはそいつが自分と同じ目をしていたことだけで────反射的に、自分もナイフを突き出した。




