縁切り
友達の付き添いで縁切り寺にやってきた。
「お前、こういうの信じるタイプだっけ?」
「すがりたくなるくらい嫉妬深くてしつけえんだよ。別れてくれねえし。周り味方につけられないよう他のやつがいるときとか文章とかにはそういう面残さねえし」
友達はずいぶんイライラとしている。当の友人以外にも、俺を含めて五人の友達が半ば強引に付き添いとして縁切り寺に連れてこられたのである。
「あいつの彼女、そんなヤバいの?」
「いやー、そんなかんじはしないけどな……」
友達が受け付けに代金を支払いそれ用のお札をもらって書いている間、こそこそと話をする。
「浮気まではしないけど割といろんな女に目移りしちゃうからなあ、あいつ」
「だよなあ」
「気にしすぎじゃねえの」
「聞こえてんだよお前ら」
苛立った友達が「才川桃香との縁が切れますように」という文章が書かれたお札を突きつけてきた。才川というのがこの友人の彼女だ。
「ンなもんつきつけられてもなあ」
「うるせえ。ここが俺の救世主よ。お前らも、すぐにわかる。わからせねえとテメエらあとでなんで別れたんだとかうるせえからな」
友人に連れられて、お札を吊るす場所へと移動する。何百何千もの「縁切りのお札」が吊るされていて、白い壁のようになっていた。高さはそう高くないが、それでも妙な圧迫感がある。
「やべー……」
「なんか怖いってこれ」
「いいかー、お前ら。ここ見ろ、ここ」
友人が吊るされた一枚のお札を手に取った。それには「才川桃香と縁が切れますように」と記されている。ただし、筆跡は友人のものではない。
「これと、あとこれも」
「え……」
「これとこれと、あとこれもか。あっちにもあるな。あとそこにあるやつも」
「は? ……え?」
何枚も何枚も、才川桃香との縁切りを願う札がある。古いのも新しいのも、男と思われる筆跡のも、女と思われる筆跡のも、しっかりと書かれている札も、震える字で書かれている札も。
全てが、才川桃香との縁切りを望んでいる。
「な? わかってくれたか?」
「おう……」
はぁ、と深いため息をつきながら、また一枚、縁切りのお札が吊るされた。




