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YouTuber

 とあるYouTuberの生放送が炎上して話題になった。


『どーもー。今日はちょっとこういうの買ってみたんですけど』

 よくありそうな内容の動画。でも多くの視聴者がいた。理由は面白いからというよりは、過去問題発言で何度も炎上してきた動画投稿者だから、なにかまたやらかさないかという黒い期待を抱く野次馬のほうが多かった。

『子供向けのくせになかなか難しいなこれ』

 買ったおもちゃを開封して遊ぶ生放送。今のところは問題ない内容だったが、トントン、とドアがノックされた。

『すいませーん。ちょっと開けてくんない?』

 若い男の声。投稿者は、あからさまに不機嫌になる。

『生放送中だから!』

『いやそれ俺には関係ないんでー。五秒以内にそっちから開ける気配なかったらこっちから開けるんでー』

『鍵かかってんだよバーカ! 言っておくけど鍵は俺がつけたやつだから合鍵なんてねえよ!』

 コメント欄が期待で溢れる。前にもこういった流れがあって、そのときは鍵をかけてなくて親が入ってきて修羅場だったからだ。

『はいはいじゃあ五秒経ったんでー』


 ばきっ


 破損の音。

 投稿者が訝しげに振り向くと、そこには開いたドアと、壊れたドアノブを握りしめて薄ら笑いを浮かべるフードの男。

『え、な……』

『この程度の鍵、俺の腕力だと障害になんねえんだわ』

『は……ってか、誰……親戚……?』

『ど~も~。腐れニートヒッキーのYouTuber気取りくんを部屋から出してくれって金で雇われた者です~』

 コメント欄の流れが速い。明確な修羅場を感じてみんな色めき立っている。

『生放送中? どうでもいいから早く部屋から出て今後について話し合いしようぜ。まあ、パソコン消す時間ならくれてやるから』

『う、うるさいな! 出てけよ! 不法侵入だろ!』

『お前の親から依頼されたんだならンなわけないだろ。家主気取りか? ほら早くぅ』

『いいからでてぎっっっ』

 なおも抵抗をみせる投稿主の頭をフードの男が掴み、なんのためらいもなく机の角へとた叩きつけた。血が飛び、カメラのレンズにかかり、映像は大半が血に隠れた。だが閲覧者は減ることなく、音声だけのそれを追い続ける。

『いッ』

『俺さあ、部屋から出ろっつってんだよ早くしろや。拒否権なんてねえんだよ』

『ご、ごめんなさっ』

『だから謝ってとか言ってねえの。部屋から出ろって言ってんの。なんで俺に逆らうんだよ。マゾか?』

『わ、わかりました』

『だから俺は『部屋から出ろ』って言ってんだよなんで尻餅ついたままお前おしゃべりするの? やっぱ気絶するまで殴って引きずってかなきゃダメ?』


 その動画はおおいに話題となり、SNSにも転載されあらゆる場所を騒がせた。


*****


「ねえ! すごいでしょ!」

「やーだ! やだ! こわい! なんでそんなもの見せるの!?」

「…………」

 いとこが二人、家に遊びに来た。

「千花は? どう思う」

「悪趣味だと思う」

 私にはいとこが何人かいる。そのうちの二人が、怖いものがきらいな奈々枝ちゃんと、怖いもの、というよりは不謹慎なものが好きな薫ちゃんだ。

「いやでもここまでの修羅場はなかなかないって~すごいよこれ。リアルタイムで見てたけど目離せなかったもん。血で映像見れないのだけはほんと残念」

「どこがいいの……痛そうだし……怖いし……」

「あんたことなんでそんなびびってるの。お化けとかじゃないよこれ。ねえ千花?」

「お化けじゃなくても怖いから!」

 奈々枝ちゃんが私の後ろに隠れる。

「……話題作りのためのお芝居の動画なんじゃないの」

「いやガチ。このあと生放送のチャンネル自体なくなっちゃったもん。これは生放送見てた誰かが転載したやつ」

「ってことは誰かが……暴力とか受けたってことでしょ? こういう風にお金で他人を殴れる人がいるってことでしょ? やだよ……」

「いやあ、この人前々から問題ある人だったし、自業自得的な? ちょっと煽っただけですーぐ顔真っ赤にして反論始めるし」

 ケラケラと、薫ちゃんは笑う。

「ちょ、挑発とかダメだと思うよ! 何されるかわかんないじゃん!」

「いや匿名だしネットだし。そんな怖がらなくても、私たちには関係ないじゃん」


*****


「っていうことあったんだけど、この動画のパーカーの人、不動くんだよね?」

『あったり~! なんで分かるの? 愛? 愛だよな? 嬉しい~!』

「声で分かるよ……」

 不動くんとのSkypeだ。まったくもう、と呆れるが画面の向こうで不動くんはヘラヘラとしている。

「こういうバイトしてるの?」

『いやあ今回は特別。なんせこのヒキニートYouTuberくん、俺の遠い親戚らしくてさあ。多少殴ってもいいから部屋から引きずり出してくれって』

 結局部屋から無理矢理出されたあと、親との話し合いの末に引きこもりの矯正施設に送られることになったらしい。チャンネルも動画もなにもかも、親が削除したようだった。

「引きこもりの矯正施設ね……あんまりいいイメージはないけど」

『まあなー。でもほら自業自得じゃん? あんなことしたらさあ』

「あんなこと? ああ、炎上のこと」

 たびたび問題発言で炎上を繰り返していて、界隈では悪い意味で有名な人物らしかった。幸い、住んでいる場所までは特定されなかったらしく家族親戚になにか被害があったわけではないらしいが。

『それもあるけどな……昔はただのヒキニートだったんだけどなぁ』

 不動くん曰く、本当に昔はただの引きこもりだったらしい。

 けれどたまたまYouTubeにあげた動画がそこそこ受けて、シリーズ化してますます閲覧数が伸びて、それにともなって好意的な感想はもちろん、否定的、時には悪意ある感想も増えていった。けど引きこもりゆえに「大人の対応」をとることができずに応戦し、それから悪い意味で注目を浴びていくことになった。

 承認欲求、そして仮にも再生数が多いゆえに得ることができた広告収入が心を過ちに導いたのか、炎上系YouTuberとしてどんどん有名になっていった。

(……薫ちゃんみたいなのが、そういう人を作り上げちゃったのかな)

 人が道を誤る様は、一部の人間にはとんでもないエンターテイメントなのだろう。悪趣味が過ぎるが。

『でさあ、なんでいまさら部屋から出すのってこれがびっくり。なんと女子高生の盗撮をしてたのでした! 近くに高校あるからさあ』

「ええ……」

 犯罪じゃないか。ドン引きする。

『動画の広告収入で盗撮に使える高性能カメラを買ったらしいんだよ。んで、たまたま親が盗撮画像データ見つけちゃったんだと。パンツとかばっちり写ってるやつ。

 はっきり言って昔からクソ甘両親でさ、俺の親父や他の親戚もあれこれ言ってたけど馬耳東風。犯罪やらかしたことでよーーーーやく目覚ましたかんじ?

 まだ向こうには気づかれてはないっぽいから今のうちにどうにかしようってことになったってわけ。犯罪の隠匿じゃん怖~い』

「ええ……それうちの高校とかじゃないよね……」

『だったら親ともども殺してるよお。三島も撮られてるかもしれないもん。でも高校違うからそれについては安心だな!』

「安心なのかな……」

『ヒキニートくんだから遠くにはいけないしぃ。ちなみに学校はうちじゃなくて────』

 告げられる高校名。それはたしかに私が通っている高校ではない。

 けれどそれは、薫ちゃんが通っている高校だった。

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