愛の神様
その湖には、愛の神様がいるという。
「日陰兄、行ってきたら」
「どういう意味だテメー」
舌を出された。しかし、友達の兄は日陰兄と同級生なのだが、常にミシマさんとやらにふられているらしい。
「学年で一番ふられてる男って言ってたって」
「あっはっはあいつぶん殴る」
中指を立てないで欲しい。
「お願いしたら恋が叶うってよー。だいたいなー俺はおまじないなんて軟弱なものに頼らないの」
「軟弱かなあ……」
「そりゃそうだろ。惚れさせるのは自分の腕だっつーの」
万年フラれ男がずいぶんと自信がある。毎度毎度ふられているのになんでめげないのか全然わからない。自分なんか、好きな子が隣のクラスの男子のことを好きだと知っただけで三日は食欲が落ちた。
「お前もな、そんなとこ行くんじゃねえぞ」
「………んー………」
「まじないに頼るへたれなんざカッコ悪いからなあ。お前が女だったら惚れるか? そんな男」
「う………」
「強い男になれ。強い男に」
鍛えてる日陰兄の体と、自分の貧弱な体を見比べる。なれと言われてもなれるんだろうか。自信はあんまりない。
「…………」
その湖に愛の神様はいるという。
────その湖で恋のお願いしたら叶うんだよ。愛の神様がいるから。
霊感少女である、愛しの三島はそう言っていた。けど同時に、こうも言っていた。
「私なら嫌だけどね」
「どうして」
「だって……」
あの神様、おまじないをした人をべろべろ舐め回したりするんだもん、と嫌そうな顔をしていた。
「恋を叶える力を使うためにはこうしないといきないって言ってたけどさあ……絶対好きでやってるよあの顔……あのスケベ爺……」
絶対に行かない。なんなら周りのやつも行かせない。俺はそう、静かに決めたのだ。




