不思議なつづら
実家の二階の物置に、不思議な古いつづらがあった。
その空っぽのつづらに物を入れて蓋を閉め、もう一度開けると中の物が消えてしまうのだ。
(きっとつづらが食べちゃうんだ)
当時小学生だった私はそう考えていた。
だから、ときどき悪いことをしたときだけ、つづらを開けた。
テストの点が悪かったときとか、意地悪な子が大切にしていたかわいい消しゴムを盗ってきたときとか、とにかく自分に不都合なものを隠蔽したいときだけつづらの蓋を開けた。一度閉めて、開けてしまえばもう何もない。
ずっとずっとそうしてきた。
だから。
「…………………………っ!」
だから、言い争いの最中に友達のサキちゃんを突き飛ばして、その子が頭をぶつけて動かなくなったときも、つづらに入れた。
蓋を閉めて開ければ、もう何もない。
「あら? サキちゃんもう帰ったの?」
「おサイフ忘れたって」
「あらそうなの」
サキちゃんの靴も財布も、全部全部つづらにいれた。
*****
だから、これは罰なんだと思う。
大人になり、ある日突然一人暮らしの部屋に現れたつづら。捨てても燃やしても、また現れる。
中にあったのは、点数が悪いテスト用紙が一枚。
数日後にまた蓋を開けると、今度はかわいい消しゴムが入っていた。
「………っ!」
覚えている。
つづらに何を入れてしまったのか。全部全部覚えている。




