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時を操り二人で旅を

 きっと、何かの拍子にぶつかってしまったのだ。


「だから、今こうなってるんだと思う」

「…………」

 雨粒は、空中で止まっている。車も、人も、犬も猫も何もかもが止まっている。

 そして私は、壁に足をつけて垂直に立っている。落ちる気配は、微塵もない。

「なんなの……その時計」

「dokidoki-san.comとかいうところで買った時計。まあ、買ったというか無料だったけど」

「…………」

「自分だけの時間をくれる時計」

 この時計をつけたまま横のスイッチを強く押すと、まず時間が止まる。二十四時間それが続き、その間時計の持ち主は自由に動ける。

 二十四時間後に全ては元に戻る。例え東京から北海道に移動してようと瞬時に元に戻るし、積み上げたものも破壊したものも全て戻る。残るのはせいぜい記憶ぐらい。本当に、ただ一時をゆったりすごすためのものだ。

「びっくりした。高いところのものとろうとしてジャンプしてたら、空中で止まるんだもの。降ろしてー!って思ったらゆっくり降りてったけど」

「あはは。ごめん。私も体が浮いたままになったからびっくりしちゃった。自分以外の周りは全部止まっちゃうから、事故防止で一旦自分も止まるんだって」

「…………どうして私も」

「これね、スイッチ押すときに誰か一人を頭に思い浮かべると、その人もいっしょに“自分だけの時間“を過ごせるの。一人は寂しいからね……。

 私は、そういえばどこかにいっしょに旅行に行こう行こうって言ってたのに結局どこにも行かなかったなって考えてたから」

「ああ……たしかに」

 一歩、踏み出す。

「よっ、と……」

 雨粒を踏んで。

「どうしたの」

「行こうよ、旅行」

 止まった雨粒をどんどん踏んで上に登る。まるで階段を上るように。まるで雲の切れ間から降り注ぐ光を目指すように。

「電車も飛行機も止まってるから遠くにはいけないけどさ、空には行けるよ」

 手を差しだされた。

「ふふ、すごい」

 顔がほころぶ。笑顔になる。ああ、この子と友達で良かった。

 空を散歩した。他の町と代わり映えのない灰色の密集地も、空から見ればなんだかジオラマを見ているようで面白い。どうせ元に戻るのだからと有名菓子店でつまみ食いもしたし、銭湯にも行った。


「そろそろ元に戻る時間だよ」

「よく分かるね」

「この時計、この機能を使ってるときは残り時間が表示されるの」

「ふーん」

「そう、だからそろそろお別れ」

「…………」

 すくっ、と立ち上がる。ほんの少し後には世界は元に戻る。結局この時計は、一時をしのぐこともできずに、ただ現実から少し離れるだけしかできない。

 もう何も変えられないのだ。

「じゃあね」

 手を掴まれる。私を、いや私の中の何かを止めるように。

「じゃあね」

 もう一度言う。

 もう何も変えられないのだ。


*****


 少女が一人、病気を苦にして飛び降り自殺をした。

 落ちる途中で壁に手がぶつかったのだろう。現場には、ヒビが入った時計が落ちていた。

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