それは道端の空想の欠片
人の強い空想が一時的に現実になることがある。それを、空想の欠片といい、そのまま現実に根付くこともある。
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アパートから大学へと続く道にそれはある。
(まただ……)
荒れきった廃屋の庭から伸びる、蔓。それが錆びた放置自転車に絡みつき、夜に見ると異様なシルエットを創り出している。
そのせいだろうか。大学からの帰り道でそこを通ると、まるで誰かがいるような錯覚に陥るのだ。今日もそれで「え、誰かいる?」と思って足を止めてしまった。
(……あったよなあ、こんなシーン……)
昨日見た、現代日本を舞台にしたホラーゲーム実況動画。昼間は異常がないが、夜になると物体が怪物となって襲ってくる。主人公は、連れ攫われた実子を助けるために夜に探索を繰り返す、というストーリー。
(ちょうどこんなかんじの敵もいたな……)
錆びた放置自転車に蔦が絡まったものも怪物の中にいた。その蔦やタイヤは自在に動き、主人公を襲う。中ボスとして現れた巨大な蔦は裂け目ができて中に錆びた目玉が詰まっていて、それがとても不気味で────。
ぱきっ
「えっ」
軽い音がした。何かが割れたような。
蔦の表面が、僅かに割れていた。中に何かがある。白い何か。丸い何か。視線がそれに、吸い寄せられる。
蔦の裂け目に、
錆色の、目玉が、
「おい」
「うわあっ!」
声をかけてきたのは同じサークルの友人だった。
「なーに突っ立ってんだ?」
「あーいや……なんでも……」
「轢かれるぞ。はよ帰れ」
「うん……」
ちら、と蔦を見る。裂け目なんてどこにもない、ただの蔦。
「…………」
翌日、無許可だが蔦を刈り取り、放置自転車を回収して業者に押しつけた。




