ウエディングドレス
不動くんとのいつもの帰り道に、新しい店が出来た。
「へえ……」
「ほー」
ガラスのショーウィンドウに、純白のウエディングドレスが飾られている。信号待ちの間、少し見ることにした。
「俺らもいずれ……なっ?」
「何が『な?』なの……」
もう、と思うが少しウエディングドレスを眺めている。微細な細工が美しい。
「高い」
「高えー」
そして高価だ。結婚式で着られるドレスはほとんとレンタルらしいがそれも当然だと思う。
ゆら、と。
マネキンに重なっていた何かが揺れた。それは飾られていたドレスを着た半透明の女の人。幽霊なのか、妖精さんなのか、判別はつかない。
女の人はショーウィンドウをするりと抜けると、微笑んだまま、頭に乗せていたティアラを私の頭に乗せた。
「ちょっ」
……そしてそのまま、女の人はマネキンの中へと帰って行く。
「どした?」
「……ティアラ被せられた」
「え、見たいんだけど」
不動くんには視えないようだ。けど鏡を見ると、銀色のティアラが頭に乗っている。どう返せばいいんだろうか、これは。
「えー、絶対かわいいってー。見たい見たい。カメラとか撮ったら写らねえ?」
「心霊写真じゃないんだから……」
諦め、不動くんがスマホのカメラで撮影するのを待つが、その手は途中で止まった。
「やっぱやーめた」
「どうしたの」
ニマニマと、笑っている。
「将来自分で被せるし」
「……はいはい」
「なあ今の『はい』ってOKって意味でいい!?」
「ポジティブだね」
車が動き出す。信号が変わったようだ。青信号になった横断歩道へ向かって歩き出す。
(後で返せば良いか……)
少し振り返ってマネキンを見ると、さっきの女の人が悪戯っぽい笑みを浮かべて手を振っている。
「新郎の服もさー。俺はどんなのが似合うと思う?」
「何着たって似合うでしょ」
「いやいややっぱりこの俺の美貌を引き立てる色やデザインってのがさあ……」
そんな他愛もない話をする、二人だけの平穏なひとときだった。




