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妖精のパイはいかが?

 あたしは冒険が大好きだ。


 幼稚園に入るときにパパとママが買ってくれた三輪車に乗って、入ったことがない道に入るのが大好きだ。だってあたしの家の近くにはないきれいなお家や、お花や、ノラ猫が、いっぱいいっぱい見つかるから。

 今日も人が歩いていない知らない道に入ってみると、とてもとてもキレイなお花のアーチを見つけた。この先をくぐり抜けたらどんな素敵なところだろうと思いながら先に進むと、まるで天国のような、とてもとても広くてキレイな花畑に繋がっていた。

『ややっ、ニンゲンだ!』

 足のところで声がしたと思って下を見ると、なんと絵本に描かれていたのとそっくりの、羽根が生えて光っている、小さな小さな妖精さんがいた。

『まあ! ニンゲンだわ!』

『歓迎するわ!』

 たくさんの妖精さんがあたしの周りに集まってくる。妖精さんは、本当にいたんだ! あたしは嬉しくて嬉しくて、お友だちになりたいと言った。

『素敵! 私たちもあなたとお友だちになりたいの!』

 そうして妖精さんたちは、どこからか丸くて茶色いものを持ってきた。

『これはお友だちの印よ!

 さあ、妖精のパイはいかが?』


 妖精のパイは食べてはいけない。

 私は霊感があるから知っている。妖精さんがどんな存在なのかということを。

『やあ、ニンゲンのお嬢さん』

「こんにちは、花畑の妖精さん」

 高校の帰り道にある、妖精さんの国の入り口。花のアーチでできたそれは、小さな妖精さんには不必要なほどに大きいものだ。ーーー人間が、通り抜けられるほどに。

『あんたもこっちに遊びに来たらいいのに』

「うーん、遠慮しておこうかな」

 血の臭いがする。きっと誰かが餌食になったのだ。

 花畑の妖精さんは美しい花のアーチで夢見がちな子供を自分の国に引き込んで、眠り薬が入ったパイを食べさせる。そしてガリバーみたいに縛りあげたあとに、動脈を斧で切って殺すのだ。

 殺したあとは肉は食料に、皮はなめして革製品へ、歯は研いで武器になり、血は薬や肥料に、骨は家具や装飾品に、髪は縫い物編み物に使うという。人間に捨てるところはないそうだ。

 彼らは生活のために人間を殺す。私たちが豚や牛を殺すように。

「? なんだろう、歌が聞こえる」

『ああ、鎮魂歌だよ。さっき猟をしたからね。我々の命の糧となったニンゲンの少女が、迷わず天国に行けますようにとね。猟のあとには必ず歌うんだ』

「へえ、キレイな歌声だね」

『今歌ってるのはオレの娘だ。自慢の歌姫だよ。

 まあ、たしかに猟のあとだしな。今度寄ったときは中に入ってくれよ。眠り薬が入っていないパイをご馳走するよ』

 妖精さんはにこやかに笑って、私の背中を見送ってくれた。


 数日後、暇なときにテレビをつけた。

 ニュース番組では、幼い娘が突然行方不明になったという夫婦が、泣きながら情報提供を呼びかけていた。

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