困る
なんでこんなことになったんだろう。
きっかけは、分からない。ただ、ある日突然そいつは現れて、それ以来つきまとわれている。他の人には見えないようだ。
『吸っテ良い?』
「…………………………………」
無視。下校時に、必ず現れるそれ。
人型で、体は全身黒々として、細身の割にいやに背が高く、身長二メートルは超えるだろう。目鼻口といったパーツはなく、顔に白くて小さい穴がたくさん空いている。
『ねーーーネーーー吸っていい?』
それは何故か僕に『吸う』ことの許可を求める。
「………………」
『あいつトかっ、あいつとかッ、あイつとかっとかっ』
下校時間ゆえに近くにいる同級生たちを指さしていく。それは、派手目だったり、リーダー格だったり、地味な僕が苦手としている同級生たち。苦手だけど、特に憎いわけでもない同級生たち。
『この穴から、ちゅーーーーちゅーーーー吸って、吸って、吸ってテテテ、いい?』
「…………………………」
なんにも答えないまま、長い横断歩道へ。ここを超えると、なぜか追ってこなくなる。
『えーーーー? だメーーーーー?』
小首を傾げるそれを尻目に横断歩道を渡る。ちらりと見るとやはり横断歩道の手前に佇んでいる。
「ふう…………」
ようやく一息つく。慣れてきたけど、本当になんなんだアレは。他のクラスの“霊感少女“に何か聞いた方がいいんだろうか。
解放され、今日もようやくこれから静かな時間を過ごせるだろう。きっと明日もそうなのだ。
明日も明後日も、きっと。