死神に願いを
目の前に死神が現れた。
三日月のような鎌を持ち、宙に浮いた少女。いっちょ前に黒スーツを着ている。
『私は死神です。寿命を支払っていただければお金をあげます』
「寿命?」
『はい。命を私に差し出せば、その量に応じて大金を差し上げましょう』
「例えば?」
『そうですね。例えばお金ですと一年で二百万。十年で五千万。百年で十億となっております。一度に支払っていただける対価が大きいほど、こちらもサービスしますよ』
「寿命残り三十年の人が十億欲しさに百年選んだら、すぐ死ぬ?」
『ええ。もちろん』
「寿命を取り過ぎてすぐ死ぬとして、死に方は選べる?」
『? はい。まあ、死神ですしその程度は。
ご家族がいるのに多額の借金を抱えている方など、あえて残り寿命より多い対価を差し出す方もいらっしゃいますし、当然みなさん安楽死をご希望されますが……』
「じゃあ……」
『七時のニュースです』
テレビの向こうで、ニュースキャスターが淡々と読み上げる。
『本日午後三時頃、■■で男性が突如全裸となって走り回ったあと、大量に血を吐いて亡くなるという事件が起きました』
せんべいを囓りながら、それを見る。
────二十年前、私の実家に押し入って、家族を殺した強盗の寿命を百年差し上げます。死に方は、この紙に書いたとおり。
試しにそう言ってみた。死神はニヤリと快諾して、『あなたの寿命ではないのでお金はその人のものになりますが』と言って消えていった。
「こいつだったんだ……」
迷宮入りした事件。密かに解決した祝いに、今はもういない家族へ捧げるワインをネットで注文した。