禁則本
その本を手に取ってはいけない。
私たちの学校に伝わる話。図書室のどこかに「禁則本」があるのだ。その本を読むと不幸になってしまうので、誰も読めないように厳重に縛られているらしい。
「……あれ?」
本が好きで好きで好きでたまらなくて、今日も今日とて誰もいない図書室に通う日々。落として本棚の隙間に入り込んだペンを、長い定規を差し込んで取り出したら、埃やペンといっしょに、薄くて紐で縛られた本を見つけた。
「もしかして……禁則本?」
読めば不幸になる禁則本。けれど、好奇心が勝って、私は紐を切り中を開いた。
本のタイトルはこうだ。
『絶対にお金が手に入るおまじない』
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「間に合いそうだな」
ひとりごちる。今は外出先から家への帰る途中だ。見たいテレビがあるが、十分間に合いそうだ。
「……ん?」
信号待ちの最中、何やら大きな音がしたので路地に入り込むと、工事をやっていた。
(あ、ここ取り壊すのか)
元はごく普通の一軒家があった。宝くじにでも当たったのか、あるときからいきなり大金持ちになり、途中までは調子が良かったが、人間関係をこじらせたり金目当ての口がうまい人間に騙されたりして、結局金のトラブルが原因で一家全員殺されてしまった。犯人はつかまったが、酷い事件だ。
(お金かあ……欲しいな。事件になるレベルは嫌だけど)
そしたらもっとかわいい服とか買えるのに、と女子高生らしいことを考えながら、信号が変わった横断歩道を渡り始めた。