足跡
昔の写真を整理したら、おかしなことに気付いた。
「なー母さん、これ誰か知らねえ?」
「え?」
「部屋掃除してたら幼稚園のときの写真出てきたんだけどさ、一人だけ分かんねえんだよ。メンバー的に近所の誰かなんだけど」
みんなでバーベキューをやったときの、子供たちが多数写っている写真。みんな幼馴染みで顔も名前も分かるのに、端っこにいる一人だけよく思い出せない。
「えーっと……」
一瞬。ほんの一瞬だが、母の顔が歪んだ。
「……さあ、引っ越した子じゃない?」
「なあ父さん」
「……知らんな」
「………………」
なにかがひっかかる、そんな対応をされた。
「あー、誰だっけこれ。見覚えはあるんだけど」
「だよな?」
幼馴染みを集めて、写真を見せた。みんな首をひねっている。
「んー、なんか思い出した。一回遊びにいったことなかったか。ほら、寺の近くの」
「あー」
「あそこ家なんてあったっけ?」
「行ってみようぜ」
結局家なんてなかったが、でも明らかに何かが建っていた痕跡はあったから、引っ越して建て壊したのかもしれないと、息子は言っていた。
「名前思い出したんだよ。ハルくん」
「ふうん」
息子は夕飯のあとには自室に戻ったが、リビングにいる私と夫は不気味さを感じていた。
ハルくんなんて子供は近所にはいなかった。だが、息子も含めて近所の子供たちは「ハルくん」という子供と幼い頃によく遊んでいた。
大人たちはそのハルくんを一切見たことがない。その親も知らない。
ある日、子供も大人も集まって、一番大きな庭を持つ家でバーベキューをやったのだ。
「あっ、ハルくんだ!」
急に子供たちが次々とそう言い始めたが、大人たちにはそんな子供の姿は見えない。
見えない、が、庭の隅の、前日の雨と日に当たらない場所のせいか少しぬかるみがある場所に、新たに足跡が増えた。誰もいないのに。
大人たちが戦慄する中、足跡はまるで誰かが歩いているかのように子供たちに向かって増えていき、そして子供たちは「ハルくん」を迎え入れて喜んでいた。
小学校に上がる頃にはハルくんの話題はでなくなったから忘れていたのだ。
「寺とか、行けばいいのか?」
「どう……なんだろう」
夫婦二人で首を傾げる。
いったいこれから、何が起こるんだろうか。