目的
少年が、首を吊った。
どこにも馴染めなくて半ば不登校になっていた子。ネットのアングラで男尊女卑の傾向が強い掲示板に浸っていたみたいで、どんどん性格が悪くなっていって、あり得ないほどの女への卑下と罵倒と、性犯罪じみた行動が多くなって、とうとう学校から停学を言い渡された。
そして、そのあと自殺した。誰も悲しまなかったし、親も学校を訴えるようなことはしなかった。むしろ、大きな事件を起こす前で良かったとほっとしていた。
それからだろうか。町にお化けが出てくるようになったのは。
女を襲うお化け。罵倒しながら、いやらしく体に巻き付いて、体をまさぐってくる。男の前には決して現れない。
明らかに普通の人間ではありえない身長・体型、そして死んだ子の声にそっくりだったことから、その子のお化けだと噂された。あの子が、悪霊になったのだと。
そして、死んだ子の両親がどこかの霊能者を呼んできて以来、そういう噂や体験談はぴたりとなくなった。
「で、そいつ成仏したの?」
「してないよ。悪い子だから反省するまで成仏なんてできないよ」
不動くんとの学校からの帰り道。その話になった。
「その子が首吊った木の下でね、じっと正座してる。ちゃんと反省するまで動けないんだと思う」
「ふーん。霊能者って本当にいるんだなー」
その木がある公園は、不動くんの家から近い。不動くんと別れた後で、なんとなくその公園に寄ってみた。
「あれ、いない」
いるはずの位置にいない。反省して成仏したんだろうかと考えていると、顔見知りの妖精さんが歩いてきた。
『おやヒトのお嬢さん』
「こんにちは。脳みその妖精さん」
脳みその妖精さんはみんなを幸せにしようと頑張っている妖精さんだ。ただその方法が脳みそをいじって幸福な幻覚を見せるという危険な手法を使うマッドな妖精さんだ。
『ここにいた方は、素晴らしい!』
「どこが?」
『恨み、憎しみ、執着! どれもが一級品でございます!』
「……………」
『あの方の憎悪が生み出すエネルギーを利用したら、もっともっとたくさんの方を幸せにできるだろうと、今研究中でございます』
「今はどこにいるの?」
『使い尽くして、塵となりました! もう存在はしませんとも。私は脳がある存在を幸福にはできても、魂だけとなった存在は……。ああ、私の力不足でございます。できればあの方も、お救いしたかった』
「……………」
『ああ、ご安心くだされ。あの方の尊い犠牲で、研究は進んでおります。必ずや、必ずや貴女もお救いいたしますとも。
私の同胞のように、脳を取り出し、永遠の幸福の夢を見られるようにいたしましょう────』