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ぼーーーーーーーーーー

 「ぼー」に耳を傾けてはいけない。


 引っ越した先でできた友達から、そう言われた。

 そもそも「ぼー」とは何かと聞いたら、夕方六時に町のスピーカーから鳴る、サイレンだという。

「母ちゃんが言うんだよ。『ぼー』の音をちゃんと聞くと頭がおかしくなるって。そんな時間になる前にさっさと帰ってこいって」

「そんなの早く帰らせたいだけじゃないの」

「まあそうなんだけどさ、聞いてみろよ。ちょうど六時だ。」


 ぼーーーーーーーーーーーーーーーー


 揺らぎのない一定の音。それが延々と続いている。本当にただそれだけの音だというのに、妙な不安感があった。

「……なんか気味悪いな」

「だろ?」

「ずっと聞いてたやつが気分悪くなったりしたんだぜ」

「俺の父ちゃん町役場で働いてるけどさ、あんな音出る設定にしてないってよ」


 ぼーーーーーーーーーーーーーーー


 音は、鳴っている。

「おー怖」

「さっと帰ろうぜ」

 そしてみんな、家へと帰っていった。


******


 夕方は終わった。あとは彼方に少しばかり残るだけ。この町は、既に夜の世界に入っている。

『………………………………………………………………』

 『誰か』がいた。ボロ布を被っている。手には鎌と、大きな枷を持っていた。

『…………………いない』

 子供が、いない。

 昔なら、まだ遊んでいる子がいて────獲り放題だったのに。今の子は、夜になる前に『ぼー』の音を聞いて帰ってしまう。

『ああっ、チクショウ!!!!!』

 鎌でスピーカーの根元を切りつける。鉄の柱は容易に傷つかず、本当に僅かに痕が残っただけだった。

 当然スピーカーが物を言うわけはなかったが、まだスピーカーの上に居残っていた鳥が飛び立ち、糞が『誰か』の頭の上に落ちる。まるで、嘲っているかのように。

『あああああああああっ!!!!!!』

 切りつける。切りつける。切りつける。

 それでも鉄は、切れることはない。


「なんだこれ」

「誰かのイタズラか?」

 翌朝。町内スピーカーの根元の切り傷。目敏い子供はすぐに気付いたが、すぐに遊びに夢中になった。子供たちがサッカーでたてる土煙が付着し、細かな傷もすぐ見えなくなる。


 スピーカーは今日も鉄の柱の上に在り、空から町を見守っていた。

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