ろくろ首
友達と街中で探検ごっこで遊んでいて、見知らぬ道に入り込んだ。
「へーこんなとこあったんだ」
「住所はうちからそんな離れてないな」
友人の一人が電柱に記されている住所を目敏くチェックする。たしかに近所ではあったが、三方をビルや高い壁に囲まれた空間で、ベンチがぽつんと一つある。あとは申し訳程度の花壇が少し。
「漫画だったらこういうところで敵に追い詰められるな」
「たしかに」
そんな風に言い合っていると、ベンチに一人、男が座っているのを認識した。顔だけ下に向けているので、表情はわからない。
さっきまで、誰もいなかったような。
「ん? あれ?」
他の友達も奇妙だなと思ったようだ。だがベンチがある場所は壁による濃い影がかかっている場所でもある。見逃しただけかもしれないと、心の中で決着をつけた。
つけた、が、
「……………え」
するすると、男の首が伸びていった。音もなく、ただただ白い首が伸びていく。それは、壁よりも高く。
そして下を見ている顔。真っ黒な双眸が、じっとこちらを見つめていた。
「……で、全員逃げ帰ってきたんだよ。ビビり散らしててめっちゃ面白えの」
「あんまりからかっちゃだめだよ」
同じクラスの不動くんの弟とそのお友達が、数日前にお化けを見たようだ。
「面白そうだしさー、俺らも行ってみねえ?」
「もう何もいないよ」
「え?」
「知ってるよ。壁に囲まれたところの男のろくろ首」
私には霊感がある。だから身近な場所のお化けとは、縁がある。
「あのお化け、なんであんなとこで首伸ばしてるのか分かる?」
「? そういやなんでだろうな」
「あの壁の向こうって、温泉なの。露天風呂つきの」
「…………ん?」
「覗いてただけだよ。スケベなお化けだよ」
「………なんと」
「この間股間蹴ってからいなくなったから、しばらく来ないと思うけど」
「いい趣味してんじゃん。友達になれそう」
「…………へー………………」
「冗談ですハイ」
ヘラヘラしている不動くんに冷たい視線を浴びせながら、小さく一つ、ため息をついた。