足音
足音が、聞こえる。
ボロアパートなせいか、他の部屋の住人が帰ってくるとすぐ音で分かる。どんなに静かに歩いても、カンカンという音が外の階段から響いてくるからだ。特にうるさいというわけではないので、それについては文句はない。
カンカン
カンカン
問題は、いつの頃からか、毎日夜中の十二時になると階段を上る音、そして玄関前の通路を歩く音がするようになったこと。
そしてそのあとに、階段を下りる音や、ドアを開ける音はしないということだ。
(薄気味悪い……)
どこかの怪談で聞いたようなシチュエーションには微かな不快感と不安感を覚える。
カンカン
カンカン
今夜も音が近づいてくる。最近は慣れてきて時報代わりになってきた。
カンカン
カンカン
廊下を歩く音がする。だんだんと、近づいてくる。
音がなくなった。まるで静止したのかのように。
トントン
「え?」
いつもよく聞く、家の中を誰かが、いや自分自身が歩く音。けれど自分は今ベッドに寝転んでいる。
「………………」
意を決して近くにあった分厚い雑誌を防具代わりに手にし、玄関へ続くリビングのドアを開ける。
明かりを点けても、誰もいない。
トントン
トントン
それでも、『誰か』の足音は、静かに静かに響いてくる。