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噂の正体

 山の中の湖には、お化けが出るという噂があった。


 ぞうぞうと草木が鳴る。風に揺らされ擦れ合う音。完全に曇った空の下のそれは、妙に不気味に感じ取れた。

「……………」

 一瞬怖じ気づいた体に自ら張り手を食らわせて気合いを入れる。 

「どうしたんだよ」

「いや、虫がいただけ」

 振り返った友達の怪訝そうな顔に曖昧な笑顔を返す。ふぅん、と友達はまた前を向いた。

 友達の中で話題になっていた、■■湖のお化けの話。昔からそういう言い伝えはあったそうだが、実際に見たという人がいなかった。

 だが少し前から、急に気味が悪い化け物を見たという証言が増えた。それは首がない女だったり、動く骸骨であったり、腐りかけの老人であったり、様々だ。

「俺たちで成敗してやる」

 同じ小学校の同級生、かつガキ大将である友達は、さっそく数人を連れて化け物退治に乗り出した。自分は行きたくなかったが、なんとなく流れで来てしまった。気が弱いせいだ。自分と違って、はっきりと自分の意思を示すことができる兄がうらやましい。

 ……いや、兄ならむしろ率先してこういうことに首を突っ込むだろう。そういう性格なのだ、日陰兄は。

「んー……いるか?」

「なんもねえけどなー」

 とうとう現場の湖に着いてしまった。とはいえすぐに見つかるとは思っていない。こんなときのためにみんなで持ってきた釣りの道具を地面に広げる。

「えっ、お前そんだけしか持ってきてねえの」

「バッカ。これだけで十分なんだよ釣りってのはよー」

 どうかただの釣りで終わりますようにと祈りながら、釣り糸を湖面に垂らす。

 しばらくして何匹か釣れたり、釣り初心者にやり方を教えたり、すっかり釣りに夢中になった。

「おい、何してんの」

「……え? なんで、日陰兄……」

 振り返ると、兄がいた。なんでこんなところに。

「え? じゃねえよ夕飯の時間だぞ。迎えに来たんだぞ」

「えー、今釣り勝負してるんだよ」

 三十分以内で誰が一番釣れるか。お化けのことなんかすっかり忘れて、そういう勝負を始めていた。

「勝負じゃねえんだよ勝負じゃ。まったくしょうがねえ弟だな」

 はぁ、とため息をついて、ポケットに手を入れる。そして出したとき握っていたのは、薄い鈍色。

 なんで、カッターなんか。

「聞き分けのない弟なんか────殺しちゃっても構わねえよな?」


*****


「こんにちは、湖の鬼さん。山の入り口にいるのは珍しいね」

『ああ、ヒトの嬢ちゃんか』

 私には霊感がある。だからお化けとも妖精さんとも鬼さんともお話しが出来る。

『なあ、聞いていいか?』

「なに?」

『最近よお、人がぞろぞろ来て騒がしいなって思ったら、そのあとさっぱり来なくなっちまったんだよ。理由分かるか?』

「ああ、子供が倒れたせいだよ」

『子供ぉ?』

「あなたがいつもいる湖で子供がたくさん倒れてたの。たまたま釣り人が見つけて病院に運んだんだ。生きてたけど、よく分からないことばっかり言うから警察が湖を調べたの。そしたら二酸化炭素って気体が多く出てるのが分かったの。それを多く吸いすぎると、生きものは幻覚を見たり、息が出来なくなったり、死んじゃったりするの。

 多分、この間の地震のせいで湖の奥に溜まってた二酸化炭素が出てきて子供たちが吸っちゃったんだね。

 で、それ以来立ち入り禁止」

『へえー、ニサンカタンソねえ。あれ、そういう名前だったのか』

「知ってたの?」

『なんか最近湖から変なのが出てるなぁと思ってはいた。野ネズミとかが死んでたりしてなあ。ニサンカタンソのせいだったのか』

「ネズミさんも息できなくなったら死ぬからね」

『ふうん……ニサンカタンソね。ありがとなヒトの嬢ちゃん。急にガキどもがバタバタ倒れてよお、様子見てたら大人がきて運んでくから何かと思ってたぜ』

「そうなんだ。じゃあね」

 散歩のために、山の遊歩道に入る。その後ろで、湖の鬼さんがぼそっと呟く。

『あともうちょっと大人が来るのが遅けりゃなあ……夕飯が増えたのに……』

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