骨
人を殺した。
いつまで待っても、何を言っても、はぐらかして金を返さないあいつが悪い。踏み倒そうとしている気配すらある。
しかし殺してしまったとなるとさすがに困る。こんなことで捕まりたくはない。死体を処分してしまおう。
幸いここは田舎だ。あいつの家だ。隣近所までは少し距離がある。
肉は削いだ。そぎ落として庭に撒いた。しばらくしたら鳥や獣が食べてなくなっていた。毎日そうやって少しずつ減らしていって、やがて肉はなくなった。
あとは骨だ。どうしようか。肉と違って食べては貰えないだろう。
ああ、そうだ。いいことを思いついた。
「何コレ、リアルだなー」
「いいよな、この革ジャン。アクセもいいな」
客の声が聞こえる。若い男が革ジャンを着たマネキンを囲っていた。
俺が店長をしているごつい男物のアパレルショップに、マネキンが一つ増えた。マネキンというか、骨格標本。それにスカル系の服やら帽子やらアクセを身に付けさせたら、けっこう人目をひいて売り上げが少し伸びた。
「店長、どこから買ったんですかこんなの。しかも領収書出さないってことはポケットマネーですか?」
「商売やってる知り合いが、店閉めるから売れ残りで欲しいものあったらもっていけって言ってたんだよ」
「へー」
「お前こそ何してんの」
「なんかあいつ人気あるみたいなので、名札でも作ってやろうかと思って」
バイトが『スカルくん』という安直すぎる名前を書いた紙を、ネックストラップつきのパスケースに入れている。それを骸骨の首から提げると、面白がった客が写真に撮っていた。
……まあいいか。
「案外バレねえもんだな」
「なんか言いました?」
「なんも」
客が『スカルくん』が着ている服の別のサイズはないかと聞いてきた。営業スマイルで、同じ服がまとまっている売り場まで案内する。
稼げ稼げ。少なくとも、俺に返済し終えるまで。